電子投票のすすめ

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2015年06月04日

  • 木村 浩一

今国会で公職選挙法が改正され、選挙権が18歳以上に拡がる見込みである。昨年の衆議院選挙での投票率は戦後最低の52.7%に下がったが、特に若者の投票率が低く(20歳代32.6%、60歳代68.3%)(総務省)、投票率の向上が大きな課題となろう。

選挙権の拡大の動きがある一方、国政選挙における投票所の数が減り、国民の権利である選挙権の行使が難しくなる人々が増えている。昨年の衆議院選挙時の全国の投票所の数は4万8,620ヵ所だったが、これはピークの2001年の参議院選挙の時と比べ約1割減少している(総務省)。特に、人口密度が低い北海道や東北地方で減少数が大きい。

この背景には、有権者の数が減っていることの他に、投票所での立会人の確保が難しくなっていることがある。今後、人口減少、高齢化に伴い、特に地方では行政の担い手も減り行政機構の維持も難しくなっていき、投票所の減少は避けられないだろう。車を持たない高齢者は物理的に投票所に行くことができなくなり、高齢化も投票率の低下の一因になっていく。

若者の投票率の向上と投票所の減少という課題の解として、バルト3国の1つ、エストニアが実施している選挙の電子投票がある。

エストニアは、電子政府を強力に推進する世界有数のIT先進国である。エストニアは人口131万人で日本の約100分の1の割に、国土面積が日本の8分の1もあるため、人口密度は世界でも下位に位置する1k㎡あたり29人と少ない(ちなみに日本は343人、一番少ない北海道で70人である(平成22年国勢調査))。そのため、人口密集地以外では行政施設を設け行政サービスを提供することが難しい。そこですべての国民にIDカードを配り自宅のパソコンで確定申告などの様々な行政サービスを受けられるようにしている。そして、2005年、IDカードとパソコンで投票を行う電子投票を世界で初めてスタートさせた。

選挙公示・告示後、いつでも自宅で投票できる電子投票なら、我が国でも導入すればパソコンを使い慣れた若者は投票しやすいだろう。また、投票所が遠くなる過疎地での選挙権の行使もしやすくなる。

今年10月から通知が始まるマイナンバーは、IDカードが国民に配布され税金や社会保障の分野で使われるが、国民の権利である選挙権の行使にも使えるように制度を改めるべきであろう。システム化やプライバシー保護、広報などクリアすべき課題はあるが、エストニアは既に実行している。アベノミクスで国家戦略特区が設けられるが、例えば過疎地や若者が多く住む地域などに電子投票のための「選挙特区」を設け、我が国でもマイナンバーを使った電子投票をスタートすべきではなかろうか。

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