TPPとオタク文化

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2015年06月03日

  • 間所 健司

TPP(環太平洋経済連携協定)交渉も大詰めを迎えているようである。農産物に関しては、米、牛肉・豚肉、乳製品などの重要品目以外は関税撤廃が避けられない見通しとも聞く。

このように、TPPでは特に農業分野が注目されているが、その一方で日本のオタク文化が危機にさらされていることを忘れてはならない。「何でTPPによってオタク文化が危機になるのか?」と疑問を持たれる方も多いと思われる。なぜオタク文化が危機に見舞われるのかを簡単に解説してみる。

毎年夏と冬にコミックマーケット(通称コミケ)が開催されている。今年の夏も8月14日から8月16日にかけて東京ビッグサイトで開催される予定となっている。コミケでは、コスプレと言われるマンガやアニメのキャラクターに扮する姿のほか、有名なマンガやアニメを二次使用した同人誌が多数販売されている風景がよくみられる。人気コンテンツの場合、その作品数も膨大なものとなり、把握することが困難なものも多い。

このような同人誌は二次創作物と言われ、現時点では著作権者により、相乗効果を期待して黙認するケースや著作権を侵害するものとして法的手段をとるケース、一度許諾したものを取り消したケースなど、実際にその対応はさまざまである。

日本では、著作権法第123条によると、著作権(および著作隣接権)の侵害については、親告罪(告訴がなければ訴訟が提起できない犯罪)である。つまりマンガやアニメの著作権者が大目にみている限りはキャラクター等を自由に使える環境にある。とはいえ熱心なファンが同好の士を募って行う小規模な活動ならまだしも、商業ベースにのせた大々的なモノになれば、黙認できないことも当然にあるであろう。

ところがTPPの知的財産条項案において「著作権保護期間の大幅延長」や「非親告罪化」が明記されている。著作権者が告訴をする気がなければ刑事責任を問われなかったものが、非親告罪になると、警察の判断で逮捕し、訴追することが可能になる。さらには第三者による告発も可能になるかもしれない。非親告罪化によって同人誌等の作者が委縮し、コミケの同人誌などに見られる二次創作やパロディなどの「草の根オタク文化」が壊滅するのではないかとも言われている。このことは同人誌などにとどまらず、大手出版社の作家やマンガ家にも少なからず影響があるのではないか。例えば、あるマンガ家が自分の作品の一コマに、他のマンガ家の作品のパロディを入れた場合はどう考えるべきか。

著作権保護は必要であり、重要なモノではあるが、単純なコピーである「海賊版」と同人誌などの「二次創作物」をまったく同列に扱うべきではないとも思われる。

政府が推し進める「クールジャパン構想」において、日本のマンガ・アニメ文化も重要な位置付けを担っている。農業分野と合わせて知的財産分野の動向にも目が離せない状況が続くものと思われる。

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