2015年05月22日
この2年間でコーポレートガバナンスに関する改革は目覚ましい進歩を遂げた。14年2月の金融庁から発表された日本版スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~)を手始めに、15年5月には改正会社法が施行された。そして15年3月に金融庁および東京証券取引所が事務局となった有識者会議により、コーポレートガバナンス・コード原案が提示され、この5月には東京証券取引所ではそれを実装すべく規則改定が行われ、6月1日施行予定となっている。公開企業はコーポレートガバナンス報告書を遅くても年末までに提出することが義務付けられている。
3つの異なる方面からガバナンス改革が進められているが、それに対する関心は非常に高い。金融庁によれば、公表から1年以上経過しているスチュワードシップ・コードではこの3月12日までに、投信・投資顧問会社や信託銀行など累計184社の機関投資家がコード受け入れを表明したとされる。
改正会社法および2つのコードの大きな特徴はよく言われているように、「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain 、遵守せよ、さもなければ説明せよ)」という、ソフト・ロー(法的な拘束力を持たないが、社会として従うべき規範)であることだ。「ルールベース・アプローチ(細則主義)」ではなく、「プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)」が採用されたことは日本にとって大きな転換点となったとも言える。ルールベースとプリンシプルベースの決定的な違いは、いわゆる“ひな型”が存在しないということである。つまりは各企業自身が自ら考えなければならないということに他ならない。
これまで日本ではルールベース・アプローチをむしろ心地よいものとして受け入れてきた傾向は否めない。例えば、東京証券取引所の開示規則である。これには法的拘束力はなく、ソフト・ローという位置づけではあるが、その手引書には実に丁寧に、また開示例としてひな型が掲載されている。公開企業はそれをあたかもルールとして受け止め、ある意味、横並びで規則を遵守してきた。その結果何が起こったか。例えば適時開示である決算短信の東証によるひな型には任意開示の箇所もあるものの、多くの企業が“フルスペック”での開示を行っている。また、規則ではなく、投資家やアナリストの声として求められている、決算説明会も多くの企業が開催している。しかし、すべての企業の説明会が満員御礼かといえばそうではない。企業によって参加人数に大きな差があるのも実情である。
ここで重要なことは、このように企業が横並びで取り組んできた歴史はいよいよ転機を迎えつつあるということだ。この一連のガバナンスに関する動きがその契機である。
安倍政権はコーポレートガバナンスの強化により稼ぐ力を取り戻すと説いている。しかし、誰の目から見てもガバナンス改革のみでそれが実現するとは思えない。重要なことは、今回の一連の取り組みにおいて、いかにガバナンスだけの問題にせず、自社のビジネスの状況や社会の中の位置づけ、そして自社の成長ステージを再認識し、それをガバナンスにいかに取り込むことができるかという点だ。他社の真似事ではないガバナンス体制を構築することで、考える力が強化され、結果として稼ぐ力に繋がっていくのではないだろうか。
ガバナンスや会社の仕組み、開示、そして投資家との対話(現在は目的を持った対話:エンゲージメントと呼ばれているが)は、法務部門や経営企画部門、そしてIR部門の専任事項であると考える経営者が多かったのは事実であろう。しかし、今回の大きな改革は、経営者および経営陣の意識改革が本当の要である。これに気づいた経営者こそ、稼ぐ力をモノにして行くのである。
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