企業的思考が求められる地方版総合戦略
2015年04月28日
全国の都道府県および市区町村は、「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、平成27年度中に地方版総合戦略の策定が求められている。創生法は見出しの通り、長期的には「ひと」をつくり、その「ひと」が「しごと」をつくり、「まち」をつくる流れを想定している。しかし、地方は人口減少による地域経済の縮小が更なる人口減少に繋がる負のスパイラルに直面しており、より短期間での対策も求められている。そこで、「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む好循環を作るべく、「しごと」を生むことを起点に、5年間での成果を目指したものが、地方版総合戦略だ。
新たな「しごと」をつくるには、地域経済の活性化が必要となり、外需の獲得が重要な課題の一つと考えられる。例えば、域外の人に商品を販売することや、観光の際に買物をしてもらうことで、地域内の生産が増え、新たな「しごと」が生まれるだろう。そのためには、多くの地域の中から選ばれる必要があり、地域間競争に勝つための戦略が求められる。これは、企業が「誰に売るのか?」「その顧客は何を求めているのか?」、「求めているものをどのように提供するのか?」「競合企業はどのように動くのか?」等を考えて、事業戦略を検討することと同じである。従来の地域活性化のように、単なる企業誘致や、好事例を真似たりすることに留まるものではない。必要なのは外部者で顧客や競合の視点から想像し、戦略を練ることだ。選ばれなければ、何も買っては貰えない。
「ひと」においても選ばれる重要性は変わらない。例えば、子育て支援や移住支援を目的に補助金を出す場合、支援内容に差が無ければ、地域間の補助金の引き上げ競争になる可能性がある。多くの小売業で価格破壊が起きたのと同様、単なる施策デフレと化すかもしれない。重要なのは、「誰に選ばれたいのか?」「どうしたら選ばれるのか?」「他地域の動向は?」と言った視点で「しごと」と同様に「ひと」についても戦略を練ることだ。
無論、全ての面で、独自戦略を持つのは容易でない。重要なのは、「しごと」、「ひと」、「まち」のテーマ全体で選ばれる視点と限られた資源の配分である。これは、企業が顧客、商品・サービス、競合を念頭において、「ヒト」「モノ」「カネ」の配分を考えることと同じである。
地方版総合戦略策定までの時間は限られている。その間にどれだけ企業的思考を深められるかが、その後の成果を左右するのではないか。
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マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 岩田 豊一郎
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