TPP交渉が、アジアの統合を加速させる?

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2015年04月27日

4月16日、米国議会に大統領貿易促進権限(TPA)法案が提出され、膠着状態であったTPP交渉に弾みがつきそうだ。筆者は、この報道が東アジアの統合に及ぼす波及効果に注目している。

2015年は地域経済連携に関する交渉があちこちで行われている。TPPに加え、主なものにはASEAN経済共同体(AEC)の発足、そして、ASEANに6か国(日本・中国・韓国・インド・豪州・NZ)を加えた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)がある。RCEPは米国中心のTPPに刺激され、それに対抗する形で交渉が始まり、現在ではTPPを上回る16か国が交渉に参加している。2015年末までの締結が目指されているが、交渉は難航しているようだ。しかし、TPP交渉が進めば、RCEPの中心にいる中国にも焦りが生じ、話し合いに進展が見られるかもしれない。

日本企業にとってもRCEPの影響は大きく、実際に発足すれば、それに伴うアジアの貿易・投資戦略の変化に対応していくことが求められる。そもそも、AECというのはASEAN諸国における統合の深化を促進するものであるが、その統合の外部にある日本にとって貿易・投資に大きな変化が生じる可能性は低い。もちろん、ASEAN諸国に進出している日系企業にとっては、AECによる域内の制度の共通化やインフラの整備等、影響を部分的には受ける。しかし、ASEAN諸国で消費されたり、組み立てられたりする製品の部品を、日本等の第3国から調達する必要がある。そのため、AECそのものよりはAECをきっかけに統合が深化したASEANに、この地域のサプライチェーンにおいて重要な役割を果たす、日本・韓国・中国の3か国を加えた、包括的な枠組みが必要となる。それがRCEPである。

今年に入ってタイで開催された交渉会合では、ほぼ成果が出なかったようだ。しかしここにきて、膠着状態と見られていたTPP交渉に動きが見られたことが、RCEP交渉進展への刺激になる可能性が出てきた。AIIB設立の渦中にある中国は、自ら主導権を握る形でアジアの統合を進めたいと考えるのが自然と推察できるためだ。第8回交渉会合は、6月に京都で開かれる。動向に注目したい。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲