業務統制と情報管理

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2015年03月24日

  • 三上 徹

業務統制と聞くと、効率化のためにITによる情報管理が進み、紙ベースでのやり取りが少なくなるイメージを持つのではないだろうか。自分自身も実際に業務統制を整備する立場に立つまでは、漠としてそのようなイメージを抱いていた。しかし、実際にはペーパーレス化が進むどころか、以前にも増して紙ベースでのやり取りが多くなったと感じる。以下はそのように感じることとなった経緯とその背景である。

筆者は現在、受託計算という位置付けで、『退職給付債務計算』と『ストックオプションの公正価値算定』の2つの業務を担当している。以前は、それぞれの業務を別々の部署で所管していたが、両業務とも数理計算を主軸としていることから現在は同一の部署で所管している。また、それぞれの業務に固有の季節性があるため、マンパワーの平準化が可能となることもその理由である。

これらの2つの業務のうち、退職給付債務は財務的なインパクトが大きいため、企業がその計算を外部委託するにあたって、委託業者の業務統制の有効性を評価することが一般的である。こうしたニーズに応えるために、大和総研では業務統制の有効性に関して監査法人から保証報告書を入手している。いわゆる、国際基準ISAE 3402、米国基準SSAE 16に準拠した内部統制報告書である。この報告書に関しては、「業務のステップ毎に一定の統制目的を設定して、その目的が合理的に達成されるように手続きを定め、その手続きを適切に実行して行くこと」を検証する内容となっている。こう説明すると、計算プロセスにおけるミスを極力排除することが主目的であると考えるのではないだろうか。ところが実際に業務統制を整備してみると、最初に取り掛かる一番大切なことは、「遅滞なくスケジュール通りにお客様に報告書を届けるための管理体制を構築すること」であることがわかる。計算内容のみならず、報告書の提出までも含めた業務全般について統制を効かせるということである。業務全般の進捗管理が適正に行われなければ、不測の事態による結果報告の遅延、場合によってはサービスの停止といった状況も想定される。ついつい計算プロセスの適正化に注目がいき、効率的な進捗管理体制の構築に関してはその重要性を認識する機会が少ない。そして、案件数が増加すれば増加するほど、後々になってその巧拙が浮き彫りになる点でもある。こうした進捗管理やお客様とのやり取りも含めて、複数人でチェックを行い、その証跡を外部監査用に整える必要がある。このため、どうしても紙ベースでの情報管理が増えてしまう。

こうした実務を経験した後、ストックオプションの公正価値算定も担当することになった。ストックオプションの公正価値算定は情報開示の関係で、退職給付債務計算以上にその納期に関しては厳格に要求される。また、案件数も増加傾向にあるため、退職給付債務計算業務の内部統制報告書入手に際して得たノウハウを活用して、業務統制の一部見直しを行った。その結果、退職給付債務計算と同様に紙ベースでの情報管理が増えてしまった。

これらは提供するサービスの品質を担保するためであり、今のところ必要な手続きである。お客様とのやり取りも含めた上での外部監査用の証跡なので、簡単にはシステム化できないが、今後はこうした手続きの効率化も検討していかなければならない。

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