次にブラックスワン化する国は
2015年03月05日
日本でも今国会で選挙権年齢が18歳以上に引き下げられる見込みである。国家の膨大な借金を若い世代の負担にしようとしている我が国にとり、民主主義の維持のため必要な改革である。
独裁国家と比べた民主主義国家の難点として、議会が多様な国民の意思をまとめられず、必要な政治的な決断、重要問題の処理が難しいことが挙げられる。制度改革は遅れ、国民負担は後続の世代に先送りされ、我が国のように国家財政は借金の山になりがちだ。
一方、国家の強靭性という観点からみると、独裁国家、社会主義国家よりも民主主義国家、資本主義国家の方が、存続可能性が高いと言えるだろう。アメリカと国際社会を二分したソ連は、国家体制の矛盾を体制内で解決できず、あっけなく自壊した。政治的、経済的多様性のある国家は、多様性のない国家と比べ内部または外部からのショックに対し、対応力が高く脆弱性が少ないということであろう。
ナシーム・ニコラス・タレブ(「ブラック・スワン」の著者)、グレゴリー・F・トレバートンの両氏は、『フォーリン・アフェアーズ・リポート』(2015年1月号)に寄稿した論文「嵐の前の静けさ——次にブラックスワン化する国は」で、国家の脆弱性の基準として、①中央集権型の統治システム、②画一的で硬直的な経済体制、③過大な債務とレバレッジ、④政治的硬直性、⑤近い過去に衝撃から立ち直った経験をもっていないこと、の5つを指摘している。日本は突出した国家債務により「穏やかな脆弱性を抱える国」と分類され、中央集権化が進む中国はブラックスワン化するリスクが高まっているとし、25年間で14人が首相に就任し常に政治危機にあるがその都度立ち直るイタリアには脆弱性を示す兆候はない、と分析している。
民主主義国家であれば、国民の意思が割れても、革命や内乱という武力ではなく、選挙により政権交代が実現できる。また、中央への集権的政治システムではなく、地方分権制、連邦制の国家であれば、地域的な意思の分裂が生じても、自治権の範囲内で柔軟に対応できる。
国民の民主政治に対する信頼を維持するには、意思決定や意思決定過程の正統性が担保されていることが必要だ。選挙権年齢の引下げは実現する見込みだが、華々しいアベノミクスとは対照的に統治機構の改革は遅れている。
国難は、戦争や大災害という目に見えるものだけではない。財政難や人口動態の変化も、目には見えないものの未曾有の国難となりつつある。財政破綻というブラックスワンを日本が起こさないためには、予算制度の改革、選挙制度の不断の見直し、地方分権の強化、道州制の導入など、統治機構の改革のスピードを上げていくことが重要だ。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日