家計の正味資産2,200兆円の活用

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2015年01月09日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

国民経済計算によれば、2012年末の家計(個人企業含む)のストックをみると、資産が2,586兆円、負債が354兆円で差し引きした正味資産は2,232兆円と推計されている。日本の家計部門(個人)は、ネットでそれだけの財産を保有しているということだ。そして正味資産の額の大きさが潜在的にどの程度のリスクマネーを供給しうるのかに大きく関係するだろう。

同統計で家計の資産の内訳をみると、土地が686兆円、固定資産が340兆円となっており、土地や建物でざっと1,000兆円という姿である。金融資産は1,544兆円だが、預貯金が854兆円、保険・年金準備金429兆円と大きく、株式は105兆円とウェイトは低い。個人の金融資産の中身を預貯金中心から株式を中心にした経済活動にリスクマネーを提供する形に少しシフトさせていくことが必要だろう。

世帯数は5,459万(2013年3月、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」)なので、1世帯当たりにすると正味資産は4,090万円ということになる。1世帯当たりの金融資産は2,846万円、預貯金だけでも1,564万円となる。一方で、家計調査(貯蓄・負債編、2013年平均結果速報、総務省)をみると、2人以上の世帯の平均貯蓄額は1,739万円となっており、預貯金は1,080万円である。マクロから計算した数値と家計調査の数値にこうした大きな差があるのは、家計調査の対象世帯がどちらかというと平均的な所得、保有資産階層が中心で富裕層を十分にカバーできていないためである可能性が高い。また対象世帯であったとしても、富裕層の場合は、統計目的とはいえ資産の中身をすべては回答することには慎重である可能性もある。もっとも、そうしたバイアスのある家計調査においても、4,000万円以上の貯蓄を保有する世帯は全体の約1割で,総貯蓄額の約4割を保有している、という分布になっている(2013年)。逆に下位5割の世帯の貯蓄額は1,023万円以下である。もともとマクロとの差があるということを考慮すると、おそらく貯蓄はもっと偏在しているのが実態ではなかろうか。

この富裕層の貯蓄がよりリスクマネーを供給するようシフトしていかないと、「貯蓄から投資へ」は成就しないだろう。富裕層の貯蓄をリスクマネーに誘導していくためには、富裕層にとって最も関心の高い次世代への財産の引き継ぎ(相続)において、株式などのリスク資産を保有していることが不利にならないような制度設計をしていく必要がある。

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