特典付きふるさと納税は"ふるさと"のため?

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2014年10月14日

安倍首相は9月の内閣改造で地方創生担当相を新設し、石破茂・前自民党幹事長を充てるなど、地方活性化を重要な政策分野と位置付けている。こうした中、政府はこのところ増加している「ふるさと納税」を拡充する方針と伝えられている。

ふるさと納税とは、出身地など応援したい自治体に自身が負担する税金の一部を実質的に寄附できる制度である。自治体に寄附(ふるさと納税)をした場合、そのうち2,000円を超える部分については所得控除や税額控除が適用され、一定の上限額まで所得税や住民税を減額できる。政府は、2015年度からこの上限額を引き上げ、また、現在は必要な確定申告を省略できるようにする方針だという。確定申告が不要になれば、制度の利用者はますます増えるだろう。

ふるさと納税が増加している大きな理由に、わずかな負担額で特産品などの特典が得られることが挙げられる。ふるさと納税は「お得なもの」として、テレビや雑誌、インターネットなどで紹介されている。総務省が2013年9月に公表した資料によれば、約5割の自治体がお礼として特産品などを送付しており、地元産業のPRと組み合わせるなどしてふるさと納税を増やす取組みが広がっている。特典の内容を見ると、食料品や日用品、宿泊券など実にさまざまであり、1万円の寄附に対して数千円分の特典を設けるケースが目につく。

特典を設けて寄附を増やすというのは、本来の趣旨からはやや逸脱しているように思える。特典の過当競争にならないよう、今後、場合によっては寄付者に贈呈する商品やサービスに一定の基準を設ける必要があるかもしれない。他方、特典はふるさと納税に対する家計の関心を高め、自治体間の健全な差別化を促し、自治意識を高める手段として前向きに評価することもできる。自治体にとっては、地域の魅力を広く発信すると同時に、地域の所得を増やす貴重な手段である。だからこそ政府は制度の拡充を検討しているのだろう。

その上で、特典を設けることには見逃せない点がある。それは、所得水準の高い人ほど累進的に恩恵を受けられるという所得分配上の歪みである。例えば、夫が給与所得者で専業主婦と高校生の子ども1人がいる世帯の場合、2,000円の負担で特典を受けられるふるさと納税額の目安は、年収500万円で2.4万円(年収比0.48%)、1,000万円で8.5万円(同0.85%)、1億円で190.9万円(同1.91%)である(総務省「ふるさと納税など個人住民税の寄附金税制」)。仮に年収1億円の世帯が190万円のふるさと納税を行い、その3割相当の特典を得たとすると、約60万円分の特典を2,000円で得られる。

負担を2,000円に抑えることを意図したふるさと納税を想定した場合、2,000円を超える部分のふるさと納税額は国と居住している自治体の負担になる(国と居住している自治体の税収が減る)。つまり、家計は国と居住している自治体の負担のもとで「お得な特典」を得ている。ここから、ふるさと納税には二つの課題が見出せるのではないか。

第一に、居住コミュニティに対する会費としての住民税が侵食されることをどう考えるかという点である。第二に、所得が高いほどふるさと納税を行うインセンティブが実際に強いかどうか明らかではないものの、所得が高いほど特典が多いという形で制度が格差拡大を助長している点である。ふるさと納税を拡充するにあたっては、これらの点に配慮しないと制度に対する疑問や不公平感が強まりかねない。ふるさと納税が広く家計や自治体から支持され、地方創生の有効な仕組みとなるよう工夫が必要だ。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司