株式持ち合いに関する今後の制度的な見直し

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2014年08月14日

  • 吉井 一洋

「『日本再興戦略』改訂2014」では、コーポレートガバナンスの強化に向けた施策として、コーポレートガバナンス・コードの策定と合わせて、持ち合い株式の議決権行使の在り方の検討、政策保有株式の保有目的の具体的な記載・説明の確保に向けた取り組みを挙げている。

自由民主党が2014年5月に公表した「日本再生ビジョン」でも、①持ち合い株式の議決権行使の在り方についての検討、②銀行の政策保有株式について有価証券報告書で融資先であること以上の理由を開示するとともに、③融資先の株式保有の在り方について検討する、④コーポレートガバナンス・コードに、以下の規定を置くことなどを提案している。

◇政策保有目的での株式持ち合いは、合理的な理由がない限り、極力縮小すべきである。
◇政策保有目的の株式を保有している場合は、具体的な政策目的とその合理性を説明する。

持ち合い解消や政策保有株式の売却の受け皿としては、NISAによる個人投資家の増加、GPIFや銀行等保有株式取得機構の活用などが考えられている模様である。

持ち合い・政策保有株式の保有企業は、既に有価証券報告書で保有目的を開示することが義務付けられている。これに加えてその保有にどのような合理性があるかを開示することは、一般投資家や機関投資家が保有企業の経営陣の経営姿勢・戦略を判断する上で有用と思われるし、保有の合理性が乏しい株式について企業に売却を促す効果も期待できる。

上記開示と直接の関係はないが、先般公表されたJMIS(修正国際基準)(※1)の公開草案では、企業が評価損益を「その他の包括利益」に計上するよう指定した株式について売却益計上を認めるようIFRS(国際会計基準)を修正する提案をしている。これは、主として持ち合い・政策保有株式などを念頭に置いていると思われるが、修正の理由として「企業の経営者が企業の資産を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしているかに関する情報を提供する」ことを挙げている。上述した持ち合い・政策保有株式に関する情報開示の拡充にも同じ効果が期待できるし、経営者にとっても、持ち合い・政策保有株式に批判的な外国の投資家に対して、自らが思う合理性を説明する機会となろう。

他方、合理性の乏しい持ち合い・政策保有株式を、企業が処分しやすくする環境の整備も検討する必要がある。例えば、経営の執行と監督の分離や独立取締役の導入の促進等を前提に、他国と比較して強いと指摘されているわが国の会社法上の株主総会の権限を取締役会に移管することや、経営者の株主代表訴訟への懸念を緩和するための訴訟委員会の導入などを、上場会社について検討することも考えられる。

また、ドイツでは持ち合い解消に向けて企業の保有する株式の売却益を時限的に非課税としたことはよく知られている。厳しい財政事情の下、非課税までは無理だとしても、軽減税率を適用すれば、持ち合い株式・政策保有株式の売却を促しつつ、一時的ではあるものの、税収を確保する効果が期待できるのではなかろうか(※2)

(※1) “Japan’s Modified International Standards”。いわゆる日本版IFRS,エンドースメントIFRSと呼ばれていたものである。
(※2)なお、政府税制調査会が公表した「法人税の改革について」(平成26年6月)では、法人税減税の代替財源の一案として、企業が保有する株式の受取配当等の益金不算入の縮小が示されている。これは最終的にはその企業の株主への課税強化となり、株価への悪影響が懸念されるところである。

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