人口移動と高齢化問題
2014年06月12日
人口に関する議論が、ここにきて改めて増えてきた。政府の経済財政諮問会議に設置された「選択する未来」委員会は、5月の中間整理で、理想子ども数などの希望を実現できる環境をつくって、50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持するという方向性を提示した。
また、日本創成会議(座長:増田寛也東京大学大学院客員教授)が5月8日に発表した試算によると、地方圏から大都市圏への人口移動が現状のまま推移する場合、20~30代の女性人口が2040年までに5割以上減少する自治体が市町村全体の約5割に達し、うち2040年に総人口が1万人未満となる自治体が全体の約3割となり、そうした自治体は消滅可能性が危惧されるという。
人口移動はなぜ起きるのだろうか。要因はさまざまだが、就労・消費行動がポイントだろう。人々は、働く機会を求めて移動し、楽しい消費ができて生活しやすい場所からは移動しない。この問題のカギは「価格」である。同じ就労でも、能力を活かして高賃金を得られる場所に移動し、生活費としての物価が高くない場所に移動する。
価格差で発生する人口移動を人為的に操作するのは難しい。地方圏が人口流出を食い止めるためには、従来の「国土の均衡ある発展」型の政策ではない、それぞれの実情に合わせた地域ごとの工夫が必要である。一般に、地域別人口の将来推計は、最近の人口移動を未来に投影しているにすぎず、「価格」を考慮した将来予測というわけではない。地域別人口の将来推計は、頑張っている地域とそうでない地域の現在の違いを映している。
地方圏だけでなく、これから高齢化が進む都市圏が大変だという議論もある。確かに、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年3月推計)」によると、例えば、2010年に268万人だった東京都の65歳以上人口は、2040年に412万人になる。同じ期間に高齢者人口がほとんど増えない、あるいは減る自治体も少なくない中、主として都市部の自治体では高齢者数が増加する。
しかし、同時に、2040年における東京都の高齢者比率は33.5%にとどまると推計されており、これは約1,800の自治体の中ではかなり低い方である。しかも、この推計は、人口の移動率が2020年にかけて現在の半分程度に縮小すると仮定された結果である。実際には、働く機会や生活の面で東京の魅力が増せば、人口流入は減少せず、むしろ増えるだろうから、高齢者比率は推計値よりも低くなる可能性が十分ある。
都市圏の高齢化問題は、保育所待機児童の解消など、都市部で求められる対策を講じることで何とかなるだろう。他方、消滅を余儀なくされる地域が出ることは避けられないとしても、現在は地方圏にとって知恵を絞るチャンスである。人口が増えていた時代には、耕地を増やすために山を切り開き、住宅を作るために郊外を開発する必要があった。今度は、社会資本のコストを引下げ、効率を高めるコンパクトシティ化を進める戦略が必要になっている。それぞれの地域が、自らの将来を決められるような分権改革がますます重要だ。
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