政治混乱の続くタイの先行き
2014年05月26日
政治の混乱が続くタイで、5月20日に全土で戒厳令が発令され、22日には国軍によるクーデターが宣言された。国軍が行政権限を握ったことになる。このような状況が長引けば、観光業等に影響を及ぼし、政治の混乱で停滞する経済に更なる打撃を与えかねない。
もっとも、経済の先行きを映す鏡である株式市場は大きく崩れてはいない。戒厳令が発令された20日の株価指数(SET指数)は、前日比▲1.1%の低下にとどまった。クーデター宣言後、初めての取引となる23日のSET指数は前日比で▲1.3%(日本時間23日13時現在)となっている。また、19日には2014年1-3月期の成長率が発表され、市場予想を大きく下回ったが(市場予想:前年同期比+0.4%、実績:同▲0.6%)、この日のSET指数は前日比+0.4%であった。
年初からのSET指数の変化率は+8.2%(5月22日終値ベース)と上昇しており、政治の混乱が大きくなった(下院での恩赦法案の可決がきっかけ)昨年11月初旬の株価水準まで、あと一歩の所まで戻ってきている(図表)。今のところ、株価の動向を見る限り、投資家は政治の混乱を含めて、タイ経済の先行きを悲観していないと思われる。
ここで注意深くみていきたいのは、外国人投資家と国内個人投資家の株式市場に対する見方の違いである。昨年11月から直近(5月22日)までの外国人投資家と国内個人投資家の買い越し額を比べると、外国人投資家は1,100億バーツの売り越し、国内個人投資家は600億バーツの買い越しとなっている。つまり、外国人投資家はタイ経済の先行きを懸念しており、国内個人投資家は外国人投資家より経済の先行きを比較的明るくみていると言えるだろう。
タイの株式市場の売買シェアは外国人投資家が全体の25%程度、国内個人投資家が50%程度となっており、国内個人投資家の株価形成に与える影響が大きい。その意味では、現状の株価は国内個人投資家によるタイ経済への比較的明るい見通しに基づく要因が強いと思われる。国内個人投資家の見通しには、現地で生活を送る肌感覚、つまり、戒厳令下での生活状況、景気・物価・賃金状況などが織り込まれており、外(海外)から見るより国内経済は悪くないという印象が含まれているのだろう。
政治の混乱がいつ終わると断言することは難しいが、現時点での市場からのメッセージ(主に国内個人投資家)は、タイ経済の先行きについて過度に懸念する必要はないということだろう。

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政策調査部
主任研究員 神尾 篤史
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