2014年04月16日
時節柄、オフィス周辺では就職活動に勤しむ大学生の姿をよく見かける。同時に、姿形がほとんど変わらない新入社員も多いのだが、集団で群れていない、あるいはその真剣そうな表情から両者の見分けはつくものである。
一頃の買い手市場から売り手市場に変わりつつあるとはいえ、企業は誰彼かまわず採用するわけではなく、2014年3月に大学を卒業する学生の就職内定率は82.9%(2月1日時点)と前年から1.2ポイント上昇したものの、リーマン・ショック前の水準を下回ったままである(※1)。やはり、噂でしか聞いたことがないようなバブル時代の採用活動は夢物語かもしれない。また、現場レベルの立場からすれば、一から教え込まなければいけない新人を受け入れるよりも、ある程度の経験者を欲しがるのは、どこの世界・職場でも共通のことであろう。
最近では、特に建設現場の人手不足がしばしばメディアで報じられており、予定通り工事が進まず、ビジネスに支障を来すケースも散見される。日銀が発表する短観の雇用人員判断DI(2014年3月調査、全規模合計)をみると、建設業の雇用不足感は全業種のなかで最も顕著であり、建設業としては1992年2月以来の深刻さである。
供給不足が生じた場合、価格(労働市場では賃金に相当)の上昇で調整すると、教養課程の「経済通論」の授業で教わったものだが、実際の社会では、スキルや地域のミスマッチが需給ギャップの解消を阻んでいる。それに、好景気は一過性のブームかもしれないという先行きの不確実性があれば、企業は積極的な活動を控えるだろう。特に、公共事業では低コストに抑えたいという行政サイドのニーズもあって、当初の入札は不調というケースが多いようだ。とはいえ、震災復興事業を急ぐべきところに2020年の東京五輪開催が決定し、これは国の面子にかけて間に合わせる必要がある。
そこで、政府は、外国人を対象とした技能実習制度を、建設分野に限って受け入れ期間延長など拡充させるという緊急避難的な対応で乗り切ろうとしている。また、国家戦略特区という限定した範囲ながら、家事・介護支援人材にも外国人受け入れを検討すべきであるという提案が、民間サイドから挙がっている。2013年6月に政府が発表した成長戦略“日本再興戦略”において、「優秀な外国人留学生の倍増」や「高度外国人材の活用」と優秀で高度な技術・ノウハウを持っている人に限定した言及にとどまっていたのに比べると、やや踏み込んだ格好である。
ただ、高度外国人材にしても技能実習生その他にしても、基本的に外国人の“活用”であって、日本に定住することまで視野に入れた本格的な議論には至っていないようだ。長期的に日本の人口減少が見込まれるなかでは、海外からの単純労働者や移民の受け入れの検討が避けられないだろうが、将来、こちらの都合が悪くなったから帰ってくれという簡単な話では決してないはずであり、国内のコンセンサスを得るような慎重な議論が求められよう。
最も安直に人材不足を解消する方法は、傭兵のような世界で活躍するプロフェッショナルを期間限定で採用することであろうが、彼らを雇うにはそれなりの報酬を支払わなければならないし、異国で働くとなれば、一段と魅力的な条件・環境を整える必要がある。一方、現行の外国人技能実習制度は、日本の先進技術を学んで帰国し母国の発展を担う人材育成という尊い目的があるはずだ。これまで大胆な政策実行に取り組んできた安倍政権からすると、今回の緊急措置は小手先の印象を拭えない。
参考:文部科学省及び厚生労働省「平成25年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(2月1日現在)」
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政策調査部長 近藤 智也