成長戦略の一翼を担う?結婚経済学
2014年02月05日
最近、昭和6年に刊行された小汀利得氏(おばま としえ:元日本経済新聞社社長(※1))が執筆した『街頭經濟學』(千倉書房)を読む機会があった。その中に「結婚經濟學」なる章があり、興味深く読んだ。
小汀氏は、「自由結婚の結果が、あまりいゝ實を結ばないのは、殆んどその九十九パーセントまでが、經濟問題に發する」(『街頭經濟學』153頁)と述べている。ここでいう自由結婚とは、家同士や親の勧めによる結婚以外によるものである。すなわち、自由結婚で生じる夫婦喧嘩は金銭上の争いが全てではないものの、金銭問題が根底にあり、そこからその他の問題へと波及して生じるという。家庭内での争いごとを少なくするためには、収入が多いことが条件になるようだ。他方で収入の大小に関係なく、その分配方法に問題の根源があることが米国の社会衛生学会の調査で発見されたという。
その調査結果は、支出の方法について以下の3つを挙げ、男女で不満と思う割合が調査されている(『街頭經濟學』159頁)。
①最も古い遣り方で、主人が一切財布の紐を握つて居つて、妻君の要求に應じてチビチビ出す
②豫算制度を採用して居るもの
③夫妻共同の當座勘定を持って居るか、若くは妻君一人で全部の収支を取扱ふもの、すなはちフエミニズムが徹底的に認められて居るもの
以上の方法について、男女が不満と思う割合は、①の方法では男性8%、女性35%、②の方法では男性17%、女性23%、③の方法では男性24%、女性11%となっている(『街頭經濟學』159頁)。
この結果からみれば、どちらかが財布を握ることになると、財布を握られている方の不満が大きくなっているといえるだろう。上述の話は昭和初期の話であり、若干現代とは異なるような気がするが、金銭問題による夫婦喧嘩というのは現代でも通じる部分もあるのではないかと思われる。もっとも、最近では共働きが増えており、それぞれが別の財布を持っているケースもあり、「公平な」富の分配とまではいかないが、以前よりもお互いに金銭面に余裕があるケースも増えていると推測される。
政府の成長戦略(日本再興戦略、平成25年6月14日)の中で女性の活躍が重要視されていることを考えれば、今後も共働き世帯は増えていくと思われる。共働きをうまく続けていくために必要なことは家事の公平な分配など、家庭内で生じる多くのことを、得意分野を勘案しながら公平に対応していくということだろう。
なお、政府の成長戦略の施策としては以下の4つが挙げられている。
①女性の活躍促進や仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業に対するインセンティブ付与等(例:企業への助成金制度や税制上の措置の活用等)
②女性のライフステージに対応した活躍支援(例:育休復帰支援プラン(仮称)、希望する男女による育児休業や短時間勤務を選択しやすくする等)
③男女が共に仕事と子育て等を両立できる環境の整備(例:テレワークの普及、長時間労働の抑制等)
④公務員における女性の採用・登用の拡大等の取組の促進
特に、①・②・③の施策を実現していければ、家庭内で生じることを対処するにあたり、夫婦の時間的余裕が確保されることから、家庭内の公平性を後押しする要因になるのではなかろうか。共働き世帯(筆者も含め)は、「公平」というキーワードを肝に銘じておく必要があるだろう。
(※1)小汀氏が社長になった当時(1945年)は日本産業経済新聞社という名称だった。
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- 執筆者紹介
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政策調査部
主任研究員 神尾 篤史
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