2013年05月20日
今年も、GW中にASEAN+3財務相・中央銀行総裁会議が開催された。このコラムをご覧頂いている方にはこの会議はなじみが薄いかもしれない。確かに、この会議はG20やG7の財務相・中央銀行総裁会議よりも話題性に乏しく、日本のGW中に年1回行われるという面で日本では影が薄い存在になりがちである。しかし、東南アジア10ヶ国と日本・中国・韓国(+3)という構成国をみると、現状、日本との関わりが非常に大きく、さらに今後も日本にとって重要なカウンターパートとなる国が多い。
上述した会議は、アジア通貨危機を背景として創設されているため、同会議での取り組みはASEAN+3の危機への耐性を高める意味合いが強い。具体的にはアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)とチェンマイ・イニシアティブ(CMI)という取り組みである。アジア通貨危機の原因の一つとして、欧米の金融機関等から短期で外貨建ての資金を借り入れ、それを長期で現地通貨建ての投資に利用したことから、「期間」と「通貨」の二重のミスマッチが生じたことが挙げられている。ABMIは、アジア域内の投資を域内の貯蓄でまかなうために、効率的で流動性の高い債券市場を育成する取り組みである。CMIは金融セーフティネットというもので、ある国が危機に陥り、他国からの債務返済に窮した際に支援を受けられる仕組みである。
では、タイトルにつけた強力タッグとはどういうことか。端的にいえば、日銀の黒田総裁とアジア開発銀行(ADB)の中尾総裁の二人のことである。日銀の黒田総裁といえば、中尾総裁の前のADB総裁である。ASEAN+3財務相・中央銀行総裁会議はその名前からも分かる通り、各国の財務大臣と中銀総裁が出席するが、ADB総裁も出席する。つまり、ADB総裁として、ABMI、CMIに深く関わってきた。さらにいえば、アジア通貨危機時とその後の対応において財務省の国際金融局長(後の国際局長)、財務官(財務省の国際担当次官)という要職を務めていた。上述したABMIとCMIの創設にも深く関わっており、特に財務官時代にアジア債券市場の育成の重要性を強調してきたと著書(『元切り上げ』(p.177)2004年、日経BP社)で述べており、ABMIは黒田総裁のブレインチャイルド(発案物)といっても過言ではないだろう。日銀総裁となったことで、今まで以上に日銀内でのアジア金融協力の推進に向けた動きが活発化する可能性があろう。
他方で、ADBの中尾総裁も前役職は財務官であり、ABMIとCMIの推進に直接関わってきた。財務官となって初めての出張はASEAN4ヶ国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ)であり、アジアの金融協力の推進を各国のカウンターパートと議論した。このことからもASEANとの関係を重視してきたことがうかがわれる。黒田前総裁からのバトンを受け、引き続き、アジア金融協力に尽力することになるだろう。
アジア金融協力の推進者が同じテーブルに着くこととなり、アジアの金融協力は今まで以上に進捗する可能性を秘めていると思われる。
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政策調査部
主任研究員 神尾 篤史