オーナーになるのか、ユーザーになるのか
2013年01月07日
企業がITを使う目的が、「業務の効率化」から「競争力強化」のような攻めに変わったといわれるようになって久しい。しかし、アンケート調査からみる限り、期待通りの効果が出ているとはいえないようだ(図表)。また、企業合併や事業拡大に伴う大型のシステム構築時や急激な利用増が発生したときに、システム障害が発生して社会生活に影響を与えた事例も少なくない。官公庁でも、多額の費用をかけたにもかかわらず、ほとんど使われないシステムが構築されたり、頓挫して、それまでかけたコストが無駄になったりした、いわゆる「失敗プロジェクト」もある。こうしたトラブル・失敗プロジェクトが起こるのは、発注者のオーナー意識が不足していることが大きな原因の一つである、という認識が出てきた。いわゆる「丸投げ」である。

(出所)一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会 2012年3月30日プレスリリース 「第18回企業IT動向調査2012(11年度調査)」を基に大和総研作成
ここで、2011年3月11日以降のエネルギー問題や、2012年12月の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を見直してみると、同じ構図が浮かんでくる。電力・ガス・水道、道路・橋などに対して、我々はユーザーとして接してきた。そのため提示されたものを、そのまま受け入れてきた。自動車ユーザーというより自動車オーナーと呼んだ方が、その自動車に対する関与度や責任感が強く感じられる。自動車に対してはオーナーシップが持てたとしても、生存に必須である生活インフラに対しては全く気に留めていなかったのである。
電気は何で作られるのがいいのか、どのような課題があるのか、相反する課題・目的をどうやって解決するのか、道路や橋は何を優先して造るのか(やめるのか)、運用保守にはどのくらいコストをかけるのが妥当か、ユーザーという他人事(第三者)ではなく、日本のオーナーという自分事(当事者)として見る必要がある。そして、これらを判断するのに不可欠な情報をわかりやすく提供するよう、我々が企業・政府・自治体に求めていくことも重要である。
2013年は、日本人の意識が変わった、といわれる年になるだろうか。
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小黒 由貴子
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