高まる敵対的株主リスクと買収防衛策

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2012年12月04日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉川 英徳

2012年の買収防衛関連の出来事を振り返ってみると、「仏ダノンのヤクルトの持ち分比率を巡る現経営陣との攻防(4月)」「セゾン情報システムズによるエフィッシモ・キャピタル・マネジメントの大量買付に対する株主総会での中止要請決議(6月)」「PGMホールディングスによるアコーディアに対する公開買い付け(TOB)の開始(11月)」等と、引き続き上場企業が敵対的株主リスクを意識する事例が相次いだ1年であった。

そこで、敵対的株主リスクに対する企業側の対応である「買収防衛策」の導入状況を整理してみると、レコフ社の「MARR」によれば足元の買収防衛策導入企業数は517社(12年9月末)であり全上場企業の約15%となっている。経済産業省による買収防衛ガイドラインの公表(05年)以降、買収防衛策は06年・07年・08年の3年間で急速に普及し、08年8月には574社まで導入企業数は増加している。その後は新規の導入企業数が一巡し年間数件に留まることや有効期限到来後の非継続企業が一定数存在することから、全体で見ると緩やかな減少傾向にあるものの、いまだ高原状態にあるといえる。

個別の買収防衛策の詳細設計を見てみると、TOPIX500採用銘柄のうち2012年に買収防衛策を継続した企業は32社(うち2社が取締役会限りで継続決定、廃止・新規導入はなし)となっている。それら買収防衛策は全て、事前警告型ライツプラン(事前に大量買付に関するルールを設定し、そのルールに抵触する場合等は大量買付者以外の株主に新株予約権を付与し、大量買付者の持ち分を希薄化させる買収防衛策)となっている。導入は株主総会の普通決議、有効期限は3年、大量買付者となる基準は20%超、大量買付者に要求する情報は8~9項目、取締役会・独立委員会での検討期間は最大で120日(対価が円貨の場合で60日、その他の場合は90日、状況次第では30日間の延長オプション付)、発動する要件は7項目以内が多い。また、独立委員会の構成は平均4名弱、そのうち社外取締役は2名弱となっている(他は社外監査役・有識者で構成)。買収防衛策の発動の是非の最終的な意思決定は、独立委員会の意見を踏まえ取締役会が行う場合と、独立委員会の勧告を経て最終的に株主総会に上程し株主に判断を委ねる場合に分かれている。

最近の買収防衛策の継続時の内容変更ポイントとして、一昨年までは「発動是非の株主意思の確認手続きの追加」が目立っていたが、近年では「大量買付者等による必要情報の提供期間を明確化(60日)」といった事例が目立っている。これら変更が行われている背景としては、発動時の法的安定性より、提案検討プロセスの透明化が重視されている模様である。

足元の日本の上場企業の株主構成比率は持ち合い株の解消で金融機関の比率が低下する一方で、外国人投資家の比率が上昇しており、非安定株主比率が増加する傾向にある。エフィッシモのように活発なアクティビストが存続しているのに加えて、ダノンやPGMのようなストラテジックバイヤーによる買収も積極化している。そうした状況に対応するためには、有事の対抗手段としての敵対的買収防衛策のみならず平時からのIR等を通じた株主との緊密なリレーションシップ及び資本市場の信頼を得るためのコーポレートガバナンスの構築が重要となろう。

【参考図表】買収防衛策の新規導入、継続、廃止数

【参考図表】買収防衛策の新規導入、継続、廃止数

(出所)TDネットより大和総研作成

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吉川 英徳
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