踊り場にて景気拡大を振り返る

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2012年10月15日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
日本経済はこのところ減速感を強め、景気は踊り場の様相を呈している。また、一部のエコノミストからは、既に景気後退局面入りしているという声も聞かれる。景気後退入りが決定したわけではないが、今後の景気再加速に向けたヒントを探す意味も込めて、ここでは2009年4月に始まった今回の景気拡大を振り返ってみようと思う。

実質GDP成長率の需要項目別寄与度を、景気の谷から累積して見ると、個人消費(民間最終消費)の寄与が大きいことが、今回の景気拡大の特徴の1点目として挙げられる。これはエコポイントやエコカー補助金といった耐久財購入支援策の効果によって、耐久財消費が好調だったことが主な要因である。購入支援策終了直前の駆け込みとその反動減などによる振れはあったものの、均してみれば東日本大震災の時期を除けば個人消費は順調に拡大してきた。

特徴の2点目は、公共投資(公的固定資本形成)が成長にプラスに寄与していることである。寄与としてはそれほど大きくはないが、公共投資が長期的に減少トレンドにある中、増加が続いていることは、近年の景気拡大期にはなかったことである。リーマン・ショック以降、数次わたって策定された経済対策が景気を下支えしたことに加え、東日本大震災後の復旧・復興が経済成長に寄与した。

一方、景気拡大期にもかかわらず、企業の設備投資(民間企業設備)がほとんど成長に寄与していないことが3点目の特徴である。従来、設備投資は景気拡大における要であり、設備投資の増加を伴わない景気拡大は過去に例を見ない。企業収益は回復傾向にあったものの、設備投資/キャッシュフロー比率は低下傾向が続き、前回の景気拡大(2002年2月~2008年2月)において指摘されたような、輸出の増加が設備投資を誘発するような構図も見られていない。リーマン・ショックによる需要の急減を受けたストック調整圧力に加え、国内需要の成長に対する期待の低さや、円高による輸出競争力の低下が、企業の国内投資への意欲を低迷させているとみられる。

前回の景気拡大は、外需、企業部門中心であったことから、景気拡大の実感に乏しいと指摘されることが多かったが、今回は打って変わって企業部門を取り残す形の景気拡大となっている。持続的な景気拡大には、家計と企業のバランスのとれた成長が必要であり、企業が将来に希望を持てないようでは、家計中心の成長に持続性があるとは思えない。景気が減速感を強める今、国民の生活を守るためにも、企業活動を活性化させる策を真剣に検討し直す必要があるだろう。

今回の景気拡大期における実質GDP成長率と需要項目別寄与度
(注1)2009年第2四半期以降の各需要項目の前期比寄与度(実質)を累積したもの。
(注2)民間在庫品増加、公的在庫品増加を表示していないことから、寄与度の和は実質GDP成長率に一致しない。
(出所)内閣府統計より大和総研作成

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橋本 政彦
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