人類はアウトソースする

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2012年10月10日

アウトソースを日本語にすると「外部委託」となる。企業の業務を外部に委託して実施してもらうことである。日常的な場面では「外注」、材料や部品を外部から調達する場合は「外部調達」という言い方もする(※1)。IT業務ではプログラミングやネットワーク運用等をアウトソースすることは珍しくない。また総務や経理等の業務を外部に委託する場合は、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)という。

そもそも企業は、製造業であれば素材や部品をアウトソースで手に入れているし、小売業であれば販売員をパートやアルバイト等にアウトソースしていると考えることができる。我々の生活(衣食住)も、全てアウトソースで成り立っている。食材は外部調達するものだし、家や車も自作はしない。家庭菜園や一次産業従事者等もいるが、種や耕運機・船等の道具も含めて考えれば、何かしらアウトソースしている。

アウトソースすることの利点は、自社・自分の強みに注力できて、アウトソースする業務・材料に強みのある他社・他者の力を借りることができることである。一方、アウトソースの注意点としては、他社・他者の業務遂行能力や材料の品質等が担保されることを見極め、自社・自分の業務とのインターフェイスをすりあわせること等に手間やコストがかかることであろう。この手間は、企業だけの話ではない。食品偽装が頻発したからといって、食品を自らの手で栽培・採取・製造することは不可能だが、個人が食品検査を行うことも、技術・コストの面で非現実的である。そこで食品検査に比べれば正確性では劣るものの手間・コストがかからない方法(食品製造会社の評判、品質表示等のチェック)により、外部調達リスクの低減を図っている。

アウトソースする業務の種類や中身、割合は、手間を省く方向と、多少の手間をかけてもリスクを減らす方向の間を揺れ動いている。またIT関連の話題で恐縮だが、一時、システム構築の際、ビジネスとシステムをつなぐ重要な工程(要件定義)を自社で行わずに、外部委託先のIT企業に任せきりにした企業があった。しかし、金融機関等の大規模なシステムトラブルの発生で、アウトソースすべきでない業務もアウトソースしていたのではないか、インターフェイスの部分をおろそかにしていたのではないか、という反省があった。このためアウトソースとは逆の動き(内製化)が見直される気運も起こった。数年前から話題の「クラウドコンピューティング」にも、後に「パブリッククラウド(従来のクラウドコンピューティング)」に加えて「プライベートクラウド(社内に構築したクラウドコンピューティング)」という考えが出てきた。これもアウトソースする業務の種類や中身、割合が、揺れ動いていることの表れであろう。

生活に関することでいえば、食の外部化率(※2)の変化が面白い。外食率(※3) は頭打ちになっているが、食の外部化率は上昇傾向が続いている(図表)。これは「中食(惣菜や弁当を購入して家庭内で食べること)」が増加しているためと思われる。つまり食事の完全アウトソース(外食)の割合と完全内製(自炊)の割合が徐々に減って、部分アウトソースにシフトしているといえないだろうか。

図表 外食率と食の外部化率の推移
図表 外食率と食の外部化率の推移

(注)外食率:外食産業規模/全国の食料・飲料支出額
食の外部化率:広義の外食市場規模(外食産業市場規模+料理品小売業市場規模-弁当給食分)/全国の食料・飲料支出額
(出所)財団法人 食の安全・安心財団 「外食率と食の外部化率の推移

人類は、毛皮も牙も持たず空も飛べず深海にも潜れないかわりに、服や道具にそれらの機能をアウトソースする道を進んだ。アウトソースすることのもう一つの利点は、短期間で多機能化や機能強化が可能なことである。このため極寒から酷暑まで、海から空まで、生存することができ、急激な環境変化にも強い。何をどの程度アウトソースするか最適解はなく、前述のように揺れ動きながら人類は「進化」していくだろう。

(※1)国立国語研究所 「外来語」言い換え提案(第1回~第4回 総集編) 「アウトソーシング」
(※2)広義の外食市場規模(外食産業市場規模+料理品小売業市場規模-弁当給食分)/全国の食料・飲料支出額
(※3)外食産業規模/全国の食料・飲料支出額

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