消費税率10%で「個人間取引」が増える?

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2012年09月18日

8月10日、消費税法改正法が国会で可決・成立し、8月22日に公布された。景気条項の発動がなければ、消費税率は2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げられる。

家賃や医療費、学校の授業料など一部を除いて、ほとんどのモノやサービスには消費税がかかる。消費税率が10%になるとその負担も大きくなるだろう。

何とかして、少しでも消費税の負担を和らげる方法はないのだろうか。実は、ある。消費税がかからない「個人間取引」をすればいいのである。

例えば、リサイクルショップで税抜き5,000円のDVDを買ったとしよう。この場合、原則、消費税がかかる。消費税は消費税率5%なら250円、10%なら500円になる。

では、同じDVDを税抜き5,000円でインターネットオークションで個人から買ったとしよう。この場合、通常、消費税がかからない。

子どもの家庭教師に月3万円の月謝を払ったとしよう。この家庭教師を業者を通じて頼み業者に月謝を払う場合は、原則として消費税がかかる。一方、家庭教師と直接契約を結び月謝を払う場合には原則として消費税はかからない。月3万円の月謝なら、消費税が課税されるか否かの価格差は税率5%で月1,500円、税率10%なら月3,000円になる。

これはなぜかというと、売り上げた者が国に消費税を納める義務があるかどうか(課税事業者であるかどうか)は、年間の売上高が1,000万円を超えるか否かで判定されるからである(※1)

プロとして顧客にモノやサービスを提供する事業者のほとんどは、年間の売上高が1,000万円を超える。一方、個人が副業としてインターネットオークションでモノを売ったり家庭教師をしたりしても、売上高が1,000万円を超えることはめったにないだろう。

すなわち、「個人間取引」であれば、ほとんどの場合、消費税がかからないのである。

これを売り手の側から見れば、スモールビジネスを始めるチャンスとも言える。

個人がインターネットオークションやフリーマーケットなどで家財を売るときは、客から消費税を取らなくてよいため、消費税率10%下では業者と比べて、同じ手取り収入でも10%値段を安くすることができる(※2)

個人が家庭教師やベビーシッター、ピアノのレッスンといったサービスを提供する場合も同様である。それに加えて、さらにもう1~2割値段を下げれば(例えば、業者なら税込み1万円のところを、個人が消費税なしの7,000円~8,000円でサービスを提供できれば)客にとってはそれなりの割安感が実感できる。得意なことを持つ人が近所の知人・友人に「お友達価格」でサービスを提供する取引が成立するかもしれない。

「個人間取引」の買い手になって、消費税のかからないモノやサービスを購入して支出を減らす。「個人間取引」の売り手になって、消費税のかからないモノやサービスを提供することで収入を得る(※2、3)。消費税増税で、これから「個人間取引」が増えるかもしれない。

(※1)前々年(法人の場合、前々事業年度)の消費税課税対象品目の売上高が1,000万円以下等の条件を満たせば、免税事業者となり、売り上げた者は消費税を納める義務がない。
(※2)消費税の免税事業者は、売上に対して消費税を納める義務はないが、モノの仕入にかかった消費税額は負担することになる。一方、消費税の課税事業者は、売上に対して消費税を納める義務があるが、モノの仕入にかかった消費税額は納めるべき消費税額から控除できる。このため、モノを積極的に仕入れて売る「小売業」のようなビジネスでは、消費税の免税事業者は、課税事業者と比べて必ずしも有利にならない。ただし、不要となった家財をネットオークションやフリーマーケットで売る程度であれば、仕入にかかった消費税額は気にしなくてよいように思われる。
(※3)なお、消費税が免税であっても、所得税および住民税の申告・納税義務が発生する場合がある。例えば、給与所得者の場合、年間20万円を超える所得(経費控除後の利益)が発生した場合、所得税の申告・納税義務が、年間20万円以下でも所得(経費控除後の利益)があれば住民税の申告・納税義務が発生する。

参考レポート:
吉井一洋「消費税法改正法の内容」(2012年8月22日発表)
是枝俊悟「社会保障・税一体改革による家計への影響試算<改訂版>」(2012年8月2日発表)

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是枝 俊悟
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 是枝 俊悟