幸福のモノサシ
2012年08月16日
7月27日に始まったロンドンオリンピックは、様々な場面を見せて8月12日に閉幕した。オリンピックが4年に1度開催される度に話題になるのが各国の獲得するメダル数だろう。前回2008年の北京大会では、ホスト国である中国が最多51個の金メダルを獲得してアメリカを上回り、経済躍進の象徴の1つとみられた。そして、今回は、米国が中国を抑えて最多の金メダルを得る一方、開催国イギリスは、開催決定前の2004年アテネ大会の結果(金9、総数31)から金メダル29個、メダル総数65個と大幅に増やし開催国の面目躍如となった。
日本は北京大会の25個やアテネ大会の37個を上回り、過去最多38個のメダル(金7、銀14、銅17)を獲得した。また、24年ぶり、48年ぶりというように久しぶりにメダルを獲得した競技が多くみられたのも1つの特徴といえよう。ただ、それは、これまで継続的に獲得できた種目(例えば柔道)において、必ずしも満足する結果とならなかったことの裏返しでもある。
一方、ロンドンオリンピック組織委員会のウェブサイトに掲載されているメダル数のランキングをみると(※1)、金メダルの数を優先して、同数の場合は銀や銅の獲得数に応じて順位付けされており、メダル総数の順番に並んでいるわけではない。つまり、日本のメダル総数は全体の6番目に多かったものの、金メダルの数が前回の9個に届かず、前々回(16個)の半分以下だったためにランキング11位にとどまっている。あくまでも金メダルにこだわるのか、それとも総数でよしとするかはそれぞれ考えた方に違いはあろうが、仮に後者の場合でも、各国によって事情は大きく異なろう。
単純に、各国の人口(国連の推計人口2010年)で計算してみると、メダル1個当たり人口はグレナダの10.4万人が最も少なく、続いて陸上競技の活躍が目覚しかったジャマイカの22.8万人やトリニダード・トバゴの33.5万人などとカリブ海諸国が目立っている。逆に、多かったのはインド(約2億人)やインドネシア(約1.2億人)であり、これらの国にとってはとても貴重なメダルといえよう。ちなみに、日本は333万人と全体で51番目に多いが、中国(1788.6万人、全体の75番目)の約1/5の人数である。
このように、どんなモノサシで計るかによって現象の捉え方は様々だが、同じことは経済にも当てはまる。2010年、日本の名目GDP(国内総生産、米ドル換算)は中国に抜かれて世界第3位に後退してしまったと盛んに喧伝されたが、1人当たりでみれば、直近(2011年)でも日本は中国の8倍以上の名目GDPを稼いでいる。だが、PPPベースのGDPでは、既に2001年時点で日中はほぼ並び、1人当たりGDPの差も縮まっている。少子高齢化に伴って3年連続で人口が減っている日本の場合、国全体の高い経済成長率が望めなくなっていることから、今後は1人当たりの伸び率をより重視するという見方もあろう。また、GDPだけでなく海外からの所得の純受取等を考慮したGNI(国民総所得)にも注目すべきという議論も真新しいものではない。さらに、バーナンキFRB議長が8月6日の講演で言及した、ブータンが算出するGross National Happiness(国民総幸福量)という概念も1つのモノサシかもしれない。
そういえば、“世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃダメなんでしょうか”と発言したといわれている方は、オリンピック中継をご覧になったのだろうか。
(※1)なお、競技終了後の検査によって、ドーピング違反で失格となりメダルが剥奪されるケースがあることから(この場合下位の者が繰り上がる)、各国別のメダル数は変動する可能性がある。文章中の数字は8月13日時点のものである。
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也