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「課題先進国」の本当の課題とは

2012年07月26日

調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰

政府の国家戦略室は、一昨年に策定した新成長戦略を見直した「日本再生戦略」の原案を公表した。複数の分科会や会議で議論を重ねた上で策定された文面は、関連の報告書と合わせて読めば、中身の濃いものとなっている。特に日本の抱える諸問題の洗い出しに力が入れられ、「その通りだ」と共感する部分も多い。だからこそか、その解決に向けた方策に関しては、物足りない印象を感じざるを得ない。

最近、日本は「課題先進国」だとよく表現される。これは、すなわち他の国が同じ課題に直面し始めていることを意味している。再生戦略の中では、それを逆手にとって、「『課題解決先進国』となる、まさに歴史上稀有なチャンス」と記述している。確かにその通りだと思うし、願わくは、再生戦略が単なる作文に終わらずに、課題解決に動き出してほしい。

世界の国が直面し始めた課題は、いくつもあるが、第一は「政府債務の累増」である。危機対応で始まった一時的な支出拡大のはずだったが、その後の低成長により、債務の圧縮に目途が立たなくなった。第二は、その低成長と同時に出現した「デフレ懸念」であろう。表面上のインフレ率がマイナスに陥っている国は少ないが、長期金利の水準が将来の懸念を映し出している。日本で10年国債利回りの水準が2%以下で定着したのは1998年であるが、米国とドイツの10年国債利回りは今年に入って2%割れが定着している。そして第三には、企業部門における金余りが挙げられよう。これはデフレ懸念とも通じるが、設備投資を抑制して現金や預金として手元資金を積み上げ、結果として経済の成長率を低下させるという悪循環が欧米でも発生し始めている。

日本では、これらと同様の課題を抱え始めてからすでに10年以上が経過している。他の国も、今後同じ道を歩むリスクがある。しかし、今なお解決の糸口を見つけるに至っていない日本が、これから解決の道を示して他の国に適用する、という期待は“都合良すぎ”ではないか。むしろ、日本のケースを反面教師として別の道を歩む、というストーリーのほうが現実的に感じる人も多いだろう。揶揄するつもりはないが、日本は、挙げられた課題そのものよりも、「課題を解決できない」ことこそが課題である、と思わずにはいられない。

日本では、課題解決に向けて何かを変えようと思っても、既得権益層等の様々な要因にそれが遮られてきた。「ガイアツ」など外からの力、あるいは何か事件をきっかけに、無理矢理追い込まれる、といった流れがないと変化を実現できなかった感がある。「郵政民営化」や「事業仕分け」のように、せっかく自ら変化を決めたのに結局実行されない、という残念なことも頻繁に起きている。

もっとも、まだ諦める必要はない。昨年の震災を経て、国民には変化が現れている。内在する「課題解決の能力」にいま一度期待したいところだ。社会保障・税一体改革において、まさにこの能力の有無が試されると言って良いだろう。

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保志 泰

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