中国の新エネルギー車政策
2012年05月28日
中国では、電気自動車(EV車)やプラグインハイブリッド車(PHV車)などの新エネルギー車は7大戦略的新興産業の一つに位置付けられている。第12次5ヵ年計画でも重点分野となっており、2012年に入ると具体策が次々と打ち出されている。4月18日に国務院常務会議で発表された「省エネ・新エネルギー車産業発展計画」(2012年~2020年)によれば、(1)2015年までにEV車とPHV車を累計で50万台販売し、2020年までには累計で500万台販売する、(2)2015年に生産される乗用車の平均燃料消耗量を100kmあたり6.9Lまで引き下げ2020年までには5.0Lとする、(3)新エネルギー車の動力電池および鍵となる部品の技術を世界先進水準まで引き上げることが目標とされた。これを達成するためには技術革新への取り組みや、充電スタンドと公共の急速充電・電池交換設備の建設などが必要である。3月1日からEV車の充電口に国家統一規格が導入され、工業・情報化部は5月11日にEV車技術基準を発表し、EV車の動力源や座席数、時間あたりの最高速度や連続運転距離についての具体的な基準を7月1日から適用することを決定するなど、新エネルギー車の普及に向けた政策がいよいよ具体化してきた。
しかし、2009年に新エネルギー車への優遇策が発表されてから現在までの普及の歩みは極めてゆっくりとしている。工業・情報化部によると、2011年の自動車販売台数は1,851万台に達したが、新エネルギー車の販売台数は約8,000台にすぎない。普及のネックとなっているのは(1)高価格、(2)安全性への懸念(2011年には電気路線バスの発火事故が続発)、(3)充電器スタンドの未整備などである。新エネルギー車が本格的に普及するまでの道のりは長い。
このような事情を踏まえ、中国政府は省エネ・汚染物質削減と消費刺激を目的に、短期的には省エネ車を優先的に普及させようとしている(※1)。5月16日の国務院常務会議では、排気量1.6L以下の省エネ車に60億元の補助金の支給が決定された。技術革新や普及率上昇などによって新エネルギー車の価格が低下し、安全性も高まり、さらに充電スタンドも整備されるまでは、省エネ車が中国のエコカー政策の主役となるだろう。
(※1)省エネ車とは、排気量1.6L以下で、総合燃費が100kmあたり6.3L以下の乗用車を指す。プラグインハイブリッド車は新エネルギー車、ハイブリッド車は省エネ車に分類される。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
主任研究員 新田 尭之
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