わが国のIFRSの議論を他国はどう見るか

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2012年05月08日

2012年4月に国際会計基準審議会(IASB)のハンス・フーガーホースト議長が来日し、IASB議長としてわが国で初めてのスピーチを行った。特に新聞報道などはされなかったようである。わが国でのIFRS導入に向けた議論への関心は以前と比べて下火になっているように思う。

わが国からはIASBの評議員に2人、委員に1人選ばれている。評議員の選任過程に参加し、評議員の選任を承認するモニタリングボードには、日本の金融庁長官も含まれている。また、アジア・オセアニア地域におけるIASBのサテライトオフィスが2012年末までに東京に設置されることになっている。このようにわが国は、IFRSの開発に積極的に関与しているが、このことはあまり知られていないのではないだろうか。

ところで、わが国はIFRSを強制適用していないにもかかわらず、IFRSの開発に積極的に関与しているということについて、IFRSを強制適用する諸外国はどのように見るのだろうか。IFRSの開発に関して重要な役割を果たすべきではないと見る国もあるのではないだろうか。

現在、IASBはIFRSの開発、改訂を行っている。この際には、世界中の国々や団体の意見が反映されるが、全ての国の意見を完全に反映することは困難である。例えば、IFRSを任意適用している国と強制適用している国があり、その意見が異なっていたとする。このような場合、IASBは、強制適用している国の意見を尊重せざるを得ないだろう。なぜなら、強制適用されている国の企業は、他の会計基準を選択することはできないが、任意適用の国の企業、すなわち、わが国の企業であれば、日本基準の他に、米国基準やIFRSを選ぶことができるからである。そうだとすれば、IFRSを強制適用している国が、IFRSの開発について重要な役割を果たすべきと諸外国から思われる可能性も十分にあるだろう。

米国もIFRSを強制適用していないが、それでもIFRSの開発に影響を及ぼすことができるのは、世界最大の資本市場を有しているからであり、わが国と同様に考えることはできない。

わが国の会計基準がIFRSより優れている面があることを理由に、IFRSの強制適用を拒むのではなく、IASBに、より積極的に働きかけをすることにより、わが国の基準の考え方をIFRSに組み入れることができるかもしれない。わが国は、IFRSをより良いものにする知識と経験がある。たとえ強制適用の完了が数年後になろうとも、強制適用することを早期に表明したうえで、IFRSの開発に参加していくことにより、諸外国のわが国に対する見方も変わってくるのではないだろうか。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬