国債のリスク・ウェイト見直しの議論から考える財政健全化の必要性

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2012年04月11日

2月21日にEUとIMFによるギリシャに対する二次支援が合意され、ひとまず欧州債務危機は小康状態にある。しかし、3月9日、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)は、ギリシャ債務交換における集団行動条項(債務再編を拒否した債権者に対しても、債務再編を受け入れた債権者同様に債務削減を強制できる)の発動がクレジット・イベントに該当すると認定し、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の支払が発生するとの判断を示した。ギリシャが実際上デフォルトしたと評価したわけである。

銀行の自己資本比率規制(いわゆるバーゼル規制)上、自国国債のリスク・ウェイトは格付に関係なくゼロとされ、デフォルトしないという前提に立っている(※1)。しかし、昨年夏頃からギリシャがデフォルトする懸念が高まっていたため、昨年11月には、欧州委員会のバルニエ委員が、国債のリスク・ウェイトがゼロとされていることの見直しを求める考えを示し、G20でこの問題を取り上げるべきとの意向を示した(※2)

しかし、これまでのところ、国債のリスク・ウェイトの見直しの議論が盛り上がっているようには見えない。このことの最大の原因はおそらく、国債のリスク・ウェイトを見直すことは、バーゼル規制の枠組みを根本的に変えることに等しく、実務的には到底受け入れられないためではないかと考えられる。

この国債のリスク・ウェイトに関して気になる見解がある。これは、海外のバーゼル銀行監督委員会の元関係者が講演で述べていた見解だが、国債のリスク・ウェイトがゼロである根拠は、中央銀行が買い取れるためであるというものである。この見解には一定の説得力がある。というのは、(標準的手法の下で)リスク・ウェイトをゼロとすることができるのは、自国国債全てではなく、「自国通貨建て」の自国国債に限られているからである。確かに、自国通貨建て国債であれば中央銀行が買い取ることは可能である。しかし、多くの国は法令により中央銀行による国債引受け(購入)を禁止している。これは、中央銀行が巨額の国債を引き受けることによって経済に流通する通貨の量が著しく増大すれば、激しいインフレが生じてしまう懸念があるためである。

我が国は現在、先進国の中で突出して公的債務残高が高い水準にある(下図参照)。しかし、消費税増税法案の難航に見られるように、増税による財政再建への取り組みはなかなか進まない。今のところは、資金需要の低迷に悩む市中銀行が資金を国債に振り向けており、直ちに国債価格が下落するような事態にはないと考えられる。そのため、市場からの財政当局に対する財政再建のプレッシャーは大きくはなく、財政再建を先送りできている。しかし、このような財政再建を先送りできる状況はそう遠くない時期に転換する可能性もある。そうなった際に、ギリシャのようにデフォルトしてしまうことを回避するためには財政再建をなんとしても行わなければならなくなる。財政再建の方法として増税や歳出削減ができなければ、日本銀行に対して財政ファイナンスを行うようプレッシャーが高まり、それが、将来的に国債引受けが無制限に行われるような事態にまで至れば、激しいインフレが生じかねないことは肝に銘じておくべきだろう。

【主な先進国の公的債務残高(GDP比)(2011年〔推計〕)】
【主な先進国の公的債務残高(GDP比)(2011年〔推計〕)】
(出所)IMF世界経済見通しデータベース

(※1)吉井一洋「日本国債格付とバーゼル規制(改訂版)」(2011年8月16日DIR Legal and Tax Report)
(※2)2011年11月18日付ロイター

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 金本 悠希