暖かすぎるニューヨーク
2012年03月29日
今年のニューヨークの冬は暖かい。昨年10月末にかけて季節外れの大雪に見舞われ、今年はどれだけ降るのだろうかと危惧したものだが、その後まともに降ったのは2~3回程度だった。気温も全般的に高めで、3月22日には最高気温が華氏78度(摂氏26度)と初夏のような陽気になり、半袖で歩く人も珍しくなかった。暖冬はニューヨークに限った話ではなく、ワシントンDCでは例年よりも早くポトマック川沿いの桜が満開というように、アメリカ全体での現象といえる。NCDC(National Climatic Data Center)のデータによると、1月の全米の平均気温は平年より華氏で5.6度(摂氏で3.1度)ほども高く、2月もやや縮小したとはいえ、3.1度上回った。
天候が景気に及ぼす影響を考えると、季節商品には暑い夏と寒い冬が好都合だろうが、全体ではプラスとマイナスが混在しているとみられる。暖冬の場合、例えば、アパレルでは冬物衣料が振るわない一方、春物衣料の需要が早くから顕在化する可能性があり、個々のメーカーの対応次第では売上増加に結びついたり、在庫処分の安売りを強いられるだろう。また、外での活動がいつもの寒い冬よりも活発になって、自動車のガソリン代が増えることが想定される。レジャー関連でも、雪が少ないとスキー場等は打撃を受けるが、それ以外は恩恵を受けるかもしれない。一方、暖房需要がない分、電力・ガスなどの公益セクターの生産活動は著しく落ち込んだ。ただ、家計は余計な暖房コストが抑えられ、他の支出に回すことができる。そして、通常であればストップする住宅着工などの建設活動が暖冬によって可能になり、季節調整済みの数字は強めに出るとみられる。ただ、その反動が表れる点を考慮すると、暖冬はあくまでも一時的なノイズで、均して捉える必要があるだろう。
さて、久しぶりにOWS(Occupy Wall Street)が話題になった。昨年11月中旬の強制撤去を境にして下火になっていたが、3月17日、再びマンハッタン南部、ウォール街をデモ行進し、多数の逮捕者を出した。運動がスタートとして半年を記念したものだったようだが、報道によると、ピークだった昨年10月初めには数千人~1万人以上を動員した運動も、今回は数百人程度が行進したにすぎなかったという。また、当初は多くの共感を集めて多額の運動資金があったものの、大幅に減っているとされる。報道では、運動が縮小したのは寒さが厳しくなったためで暖かくなれば…という参加者のコメントが紹介されていたが、前述したように、今年のニューヨークは十分に暖かく、気温だけが原因であれば盛り上がる機会はこれまでにもあっただろう。
一方、OWSに対する寄付は滞っているが、オバマ大統領は大統領選挙のために2月、約4,500万ドルの献金を集め、1月の約2,910万ドルから大幅に増加。しかも、寄付をした34万8,000人のうち97.7%は250ドル以下の小口だったという。共和党の大統領候補者選びが混沌・長期化しているのを尻目に、オバマ大統領は11月の本選にむけてせっせとお金集めに勤しんでいる。従って、人々のお金は行くべきところに流れているわけで、格差問題の象徴と持てはやされたOWSは、もはや記念日に集まって騒いで過去を懐かしむ程度に先細ってしまったのかもしれない。
ちなみに、昨年9月からの一連のデモや集会への対応のために、NYPD(New York City Police Department)が警戒に当たった多くの警察官に支払った超過勤務手当など諸々のコストは1,700万ドルに達したという。OWSは厳しい景気・雇用情勢、人々の鬱積した不満を反映したといわれたが、同時にこの運動によって市の財政を圧迫したというのは皮肉といえよう。
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也
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