中台のハイテク産業攻防戦で漁夫の利は韓国?
2012年03月28日
中台関係が急速に緊密化している。2012年1月14日に実施された台湾の総統選挙で馬英九氏が再選を果たしたことを受け、2008年以降進められた『活路外交』が信認されたと捉えられたからだろう。2012年3月20日には台湾経済部より中国からの直接投資受け入れ項目の拡大が発表された。台湾から中国への直接投資は2011年で131億ドルであった一方、中国からの台湾への直接投資は規制の影響もあって0.44億ドルとバランスが悪い。2009年6月30日に第一弾として192項目、2011年3月7日に第二弾として42項目、その他に金融業などの法律修正で13項目、総計247項目の分野が既に中国からの直接投資を受け入れ可能になっていた。今回、中国から台湾への直接投資受け入れ項目として161分野が追加されたのは、台湾の一方的な中国依存を解消していくことや、2010年からアーリーハーベストが開始されたECFA(両岸経済協力枠組協議)で活発化した貿易分野をより補完することが目的であろう。今回の措置で台湾の製造業は項目全体の97%が中国大陸の資本を受け入れ可能になったのだ。
ただ、ここで見え隠れするのは、中台の静かなる産業保護の攻防戦である。台湾側は今回直接投資を開放した製造業の115項目のうち40項目に関しては、実質的な企業支配権を中国大陸側が持たないことや、既存事業への出資に制限すること、中国大陸側の出資比率を50%以下に留めることなどの条件を付けている。それだけでなく、出資比率に関する制約は削除したものの、半導体や液晶パネルなど台湾を代表するハイテク分野に対しては、投資する中国大陸企業に台湾企業との提携戦略の審査通過を課したままだ。ある意味、直接投資を認可するのに裁量の幅が増したとも言える。近年、台湾では特にハイテク産業の中国大陸側企業への人材流出が顕著となっている。また、中国政府は産業保護と技術向上にとりわけ注力しており、2012年3月22日には液晶パネルの輸入関税を3%から5%に戻す措置を4月1日より実施すると発表、今後更なる引き上げも警戒されている。台湾企業側からすれば、中国大陸への輸出主力産業の地盤沈下が始まり、技術の早期向上を目論む中国大陸資本による将来的な買収ターゲットになりやすくなってしまう懸念がある。
しかし、台湾経済の本質的な脅威は韓国であろう。EUだけでなく、2012年3月15日には米韓FTAを発効。台湾経済部が米韓FTAで台湾の2012年のGDP成長率が0.04%pt減速するとの試算を発表している一方、韓国のGDP成長率は0.42%pt上昇するとの見方もある。中韓FTAだけでなく、5月には日中韓FTA交渉の開始で合意するのではないかとの観測も出ている。中国との経済関係強化のあり方を含め、馬英九政権の『活路外交』の本質が問われてくるのは、これからだろう。
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後藤 あす美