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取引所の障害で考える証券市場のあり方

2012年03月22日

中島 尚紀

2月2日に発生した東京証券取引所のシステム障害は、米国でも報道がなされた。欧米の取引所や大手の場外取引システムでも、取引停止に至る障害が年数回発生している。さらに、一部機能の短時間の停止などのマイナーな障害は多数発生している。

ただし、一つの取引所でのシステム障害発生で証券取引が全く行えなくなる、ということは欧米ではなくなりつつある。米国では、株式を上場した取引所以外でも執行が可能である。また、欧米共に複数ある場外取引システム(日本におけるPTS)に加え、証券会社のダークプールなどでも取引を行える。さらに、証券会社が相対することも可能である。通常では、上場した取引所の出来高は米国では3割以下、欧州でも主要銘柄で5割程度の場合もある。複数の取引手法を用意することで、「取引システム全体」で考えた場合、障害の影響は限定的となっている。

そこで次の検討すべきことは、取引所に障害が発生した場合、他の取引所・取引システムで流動性が存在するか、また適切に価格形成がなされるか、という点である。さらに、複数の取引システムを連携して稼動させるための適切なルール作りやシステム処理がなされるか、も課題となる。

米国の取引所は最良執行義務を果たすため、他の取引所の気配を収集し、必要に応じて注文を回送している。このため、そもそも自律的な価格形成がなされる前提になっている。さらにこの性質を利用したHFT(ハイ・フリークエンシー・トレーダー)による裁定も行われているため、価格の形成はスムーズに行われやすい。加え、HFTや取引所公認のマーケットメイカーが積極的にマーケットメイクを行うため、流動性も十分に存在する。従って、障害時でも価格形成は適切に行われやすい。また、システム障害の際には最良執行義務を回避する「セルフ・ヘルプ」と呼ばれるプロセスを準備するなど、障害発生を前提としたルールもある。

一方、大きなシステム障害発生時に取引がうまく出来なかった例もある。2010年5月のフラッシュ・クラッシュの際には、ニューヨーク証券取引所が価格情報の提供を停止したため、他の取引所・場外取引システムでNYSE上場銘柄の気配提示が減少したとの分析もある。ロンドン証券取引所(LSE)が2009年に停止した際には、場外取引システムでも十分な流動性があったものの、LSEのシステムが不適切な情報を配信し続けたことで証券会社のシステムがそれを利用できなかったとの報告もある。障害時に取引所がどのように稼動すべきか、システムレベルで適切に考慮されていなかったとも指摘されている。

今後、日本でも電子取引の発展を鑑み、複数の取引システムを広く利用できる環境が想定される。その際には、欧米の事例からは、マーケットメイカーの促進や育成、障害時のシステム稼動ルールの整備などが、障害時に適切に取引が継続できるために重要と考えられる。さらに、これらを検討するためには、適切かつ公平な価格形成に加え、流動性、換金性など、日本の証券市場全体に求められるものは何なのかを十分に考慮すべきである。本来ならば、取引時間や休場日などもこの議論に含まれるはずである。障害発生の機にこういった面も議論され、電子取引におけるルール作りが進むことを期待したい。

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