負担増は消費税だけではない

RSS

2012年03月15日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
社会保障・税一体改革について、人々の関心は消費税率の引上げ問題に集中している。しかし、閣議決定された政府案には様々な内容が含まれており、その他の論点も幅広く国民論議の俎上に載せるべきだ。

例えば、現役層の負担である後期高齢者医療への支援金や介護保険への納付金について、総報酬割を拡大・導入する方向にある。これは組合健康保険などの加入者の負担を恒久的に増やすということだ。また、短時間労働者に対する被用者健康保険や厚生年金の適用が拡大されるが、将来の年金受給が増えるとはいえ、当面は該当者本人と雇主を合わせた保険料負担が大幅に増える。

現在の国会への法案提出はないようだが、厚生年金の標準報酬上限の引上げも議論されている。仮に健康保険並みに引き上げられれば毎月の保険料が2倍近くになる人が出てくる。しかも、引上げ分の全額は給付に反映させない方針だという。社会保険としての数理的な公正性を損なうような改正は理解が得られるだろうか。

標準報酬上限引上げもそうだが、一体改革案では、低年金者への年金加算や高所得者の年金削減、医療や介護に係る低所得者の保険料軽減、高所得者で構成される国保組合への補助削減など、負担と受益の構造を変える改正が目白押しである。もちろん、負担能力の観点からの公平性確保は重要だが、新手の再分配政策を社会保障制度の中になし崩し的にちりばめようとしているようにもみえる。

税と社会保険料について、何が同じで何が違うかについては議論があるが、本来、再分配政策は税制、税からの支出、社会保障制度からの給付をどう組み合わせるのが望ましいか、合理的な制度設計が求められる。財源の全額を税に求め、一部の高齢者だけにお金を配る最低保障年金とは、年金保険というよりは“所得制限付きの高齢者手当”ではないのか。

今般の一体改革案はそうした質の変化が漠然と伴っていると同時に、量としても増加ペースの抑制に踏み込み不足だろう。現在、92兆円の社会保障給付は、54兆円の社会保険料と31兆円の税(財政赤字)を財源としている(2010年度、差分は運用益や積立金取崩し)。毎年平均1兆円以上の社会保障費の自然増があるとは31兆円の部分が拡大しているという話であり、消費税増税はこの部分の財源確保が目的である。

しかし、毎年平均2兆円超のペースで増えている給付92兆円の増加を抑制しなければ、現在54兆円の保険料負担もますます増えていく。保険料負担が耐え切れないほど重くなれば、それでなくとも10%に税率を引き上げた後の追加増税が不可避と考えられる消費税への依存を、さらに強めることになるだろう。消費税率を今回10%に引き上げることは当然に必要だが、それだけに注目していては、社会保障全体が思わぬ方向に進むことになりかねない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

鈴木 準
執筆者紹介

リサーチ本部

執行役員 リサーチ担当 鈴木 準