高齢社会で変わる消費行動

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2012年02月20日

先日、国立社会保障・人口問題研究所から日本の将来推計人口の最新版が発表された。少子高齢社会の加速が改めて裏付けられた結果であったが、こうした急速な人口構成の変化は、消費行動にどのような影響を与えるのだろうか。

図は総務省「家計調査年報(平成22年)」より、世帯主の年齢階層別にみた世帯人員1人当たりの消費項目の内訳を示したものである。どの年齢階層でも家計消費の中で最も大きな割合を占めるのは、食費やその他の消費支出(諸雑費等)である。しかし仔細に見ていくと、年齢階層ごとに構成項目に差が出ている。

壮年層を代表する40歳から49歳では、交通・通信や教育関連の消費が多い。しかし、70歳以上の高齢層ではそうした消費は大きく減少している。これは70歳を超えると、自動車等関連費や携帯電話の通信料が減少するからである。特に、教育費は壮年層と高齢層で大きな違いが出ている。最も教育費のかかる中高生を抱える壮年層と子育てを終えた高齢層ではライフステージが大きく異なることが影響している。

一方、高齢層になると増える消費もある。代表的なのは保健医療であり、医薬品や健康保持用摂取品の増加以上に、保健医療サービス消費(医療費の自己負担分等)が大幅に増えている。また、高齢層になると食費や光熱・水道、住居といった消費も増加しやすいが、これは高齢層では世帯人員が少ない上、家で過ごす時間が長くなるからだ。食費では外食が減る一方、自宅で調理する“内食”用の魚介類、野菜・海草、果物や、調理済み食品を購入して自宅で食べる“中食”用の消費を増やす傾向にある。光熱・水道では電気代の多いことが特徴的だ。

高齢層の消費の増加で最も顕著なのは、交際費(「その他の消費支出」に含まれる)である。高齢層になると人脈も広がるので、様々な場面で“つきあい”としての贈与金(祝儀や見舞金・香典等)が増えていくことを示している。あとは、自宅の設備修繕・維持費や家庭用耐久財、家事サービス、そして余暇を利用したパック旅行などの旅行関連費用も高齢層では増加しやすい。

もちろん、消費行動は過去の行動パターンから強い影響を受けて、世代ごとで特有のものもあると思われる。例えば、インターネットやスマートフォンに慣れた将来の高齢層では今後、教養娯楽や通信といった分野で消費が増加していく可能性もある。また、外食などの所得に敏感に反応する消費項目では、所得の低下が予想されると消費を減らし、結果的に消費の構成項目は変わってくるだろう。

しかし、年齢によって取り巻く環境の変化は人々の消費行動を変えていく。高齢層になれば資産も増えて人的なネットワークも広がる一方で、ある程度の体力の低下は避けられない。今後、高齢社会が加速していく日本の消費を考える上では、こうしたライフステージの変化と消費の関係を詳しく分析していく必要があるものと思われる。

世帯主の年齢階級別にみた消費項目の内訳(世帯人員1人当たり1ヶ月間)
(注)単身世帯や農林漁業世帯を含む総世帯ベース。1世帯当たり消費を世帯人員で割った。
(出所)総務省「家計調査年報(平成22年)」より大和総研作成

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄