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バーゼルⅢ、ボルカー・ルールにより金融機関の金利リスク増大の懸念

2012年02月01日

金融調査部 主任研究員 金本 悠希

バーゼルⅢの適用開始まで1年を切り、まもなく金融庁よりバーゼルⅢを受けた告示改正案が公表される見込みである。バーゼルⅢは多岐にわたる事項を定めており、それが金融市場にどのような影響を与えるかについて検討してみる。

バーゼルⅢでは、資本バッファー・レバレッジ比率規制・流動性比率規制の導入、リスク捕捉の強化など様々な事項を定めているが、最も重要な見直しは資本の質・水準の引き上げである。これにより、普通株等Tier1比率の実質的な最低水準が、現行のバーゼルⅡの2%から、7%にまで大きく引き上げられることとなる。その結果、内部留保の蓄積でこの水準が達成できない金融機関は、普通株式の発行が必要となり、ROE(自己資本利益率)が低下してしまう。

このような状況に対して、金融機関がROEの低下を避けるために取る対策の一つとして予想されるのが国債への投資の増大である。低金利の国債への投資によってリターンを大幅に稼ぐことは困難だが、国債への投資では(自己資本比率の分母である)信用リスク・アセットは増大しないというメリットがある(信用リスク・アセットを算出する際、標準的手法では自国通貨建て国債のリスク・ウェイトは0)。また、流動性比率規制により、国債を含む流動資産の保有が求められているため、この面からも国債への投資(保有)は促されることになる。

このような国債投資の増加の結果もたらされるのは、金利が上昇した際に損失を被るリスクである「金利リスク」の増大である。実は、邦銀はバーゼルⅢの内容が固まる以前から、企業の資金需要の減少と預金の堅調な伸びの結果、国債投資を増加させており、すでに大きな金利リスクを負っている。実際、昨年10月に日本銀行が公表した「金融システムレポート」では、金利が1%ポイント上昇した場合に大手銀行(12行)は約3兆円の評価損を被ると推計されている。

このような金利リスクの増大に対して大手銀行はすでに対策を取っており、金利リスクの大きな長期債よりも金利リスクが小さい短期債への投資の割合を増やしている。また、金融庁も、自己資本比率規制の枠組みに基づき、金利リスクが一定程度を超える銀行に対して、リスク量の削減などの適切な対応を促すこととしている(「アウトライヤー規制」。ただし、改善が必要とされる場合でも、直ちに債券の売却が求められるわけではなく、金融市場への影響等に十分配慮して監督を行うとしている)。

しかし、現在、このような金利リスクの懸念をさらに増大させるような事態が生じている。これは、米国の銀行等に自己勘定取引を原則として禁止するボルカー・ルールにより、米国の銀行等が日本国債の売買を禁止される恐れが生じているためである。仮にそのような事態となれば、米国の銀行等が保有している日本国債の売却や、取引量減少による流動性の低下のため、日本国債の金利が上昇する可能性がある。

ボルカー・ルールは、ドッド・フランク法に規定されており、今年7月21日から施行される予定(ボルカー・ルールの部分には2年~5年間の移行期間あり)で、現在その規則案が市中協議にかけられている段階である(2月13日まで)。ボルカー・ルールによる禁止の対象には様々な例外が定められており、米国債や米国政府関係機関の発行債券等の売買は禁止対象から除外されているが、米国以外の政府の発行した国債は例外対象に規定されておらず、禁止されることとなる。

このような事態に対して我が国当局も懸念を抱いており、昨年末には金融庁・日本銀行が連名でFRB等の米国金融当局に対して、自己勘定取引の禁止対象から日本国債を除外するよう求めるレターを提出している。また、1月18日の日英財務大臣会合でこの問題を取り上げ、連携していくことで一致したと報じられており、カナダ政府も同様の問題を巡って米国政府を批判している旨報じられている。しかし、1月12日に行われた日米財務大臣会合においてこの問題が提起されたところ、ガイトナー長官は「『FRBが対応する』とにべもなかった」と報じられている(2012年1月19日付日本経済新聞朝刊6面)。

ボルカー・ルールの対象となる米国銀行(※1)(邦銀の米国現地法人含む)の日本の長期国債の取引におけるシェアはそれほど大きくないと推測される(※2)。また、ボルカー・ルールによって規制の遵守が求められる期限には、2014年7月までの2年間の移行期間が設けられ、さらに、移行期間は最大3年間延長できる結果、ボルカー・ルールにより自己勘定取引禁止の遵守が求められるのは、遅ければ2017年7月21日(2012年7月21日の5年後)となり、時間的余裕もある。そうは言っても、米銀が早めに対応し、日本国債売却により金利が上昇する可能性は0ではない。また、2003年には長期金利が短期間のうちに0.5%から1.6%まで上昇した事態(いわゆる「VaRショック」)も発生しており、ボルカー・ルール以外の何らかの突発的な事象により金利が急騰する可能性は存在する。いずれにせよ、金融機関及び金融当局にとって、国債投資の増加による金利ショックの増大への対応がますます重要となっているのであり、ボルカー・ルールの最終規則において日本国債が自己勘定取引の禁止対象に加えられるか否かが一つの焦点となっている。

(※1)米国銀行の日本法人も含まれると考えられる。
(※2)日本銀行の資金循環統計によると、2011年6月末時点の日本国債の海外部門の保有比率は5.7%である。また、日本証券業協会のデータによると、(大半が国債で占められている)公社債の売買シェア(短期債を除く)は2012年12月時点で、外国人が13.9%、(在日外国銀行を含む)その他金融機関が2.5%である。もちろん、ボルカー・ルールの対象となる米国銀行等はこれらのうちの一部である。

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