世界的な不透明感が漂う中、動き始めた日本の取引所

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2012年01月23日

2000年代は世界的な取引所再編が相次いだ。まず、パリ・アムステルダムなどの証券取引所が合併しユーロネクストができ、そのユーロネクストがNYSEグループ(ニューヨーク証券取引所)と合併、NYSEユーロネクストが誕生した。ナスダックは北欧・バルト諸国の取引所を運営するOMXを買収、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)やICE(インターコンチネンタル取引所)などの先物取引所も、他取引所の買収を進めた。日本では新潟・広島証券取引所が2000年に東京証券取引所(以下、東証)と合併し、京都証券取引所が2001年、ジャスダック証券取引所が2010年に大阪証券取引所(以下、大証)と合併している。

しかし、2010年代に入りその流れが変わり始めた。取引所の統合が成立しないケースが増加しているのである。成立しない理由は主に2つに分けられる。“ナショナリズム”と“独占禁止”の壁である。

“ナショナリズムの壁”の例は、シンガポール取引所とオーストラリア証券取引所の統合計画の破談や、ロンドン証券取引所とTMXグループ(トロント証券取引所を傘下に持つ)の合併計画が破談したケースがある。前者に関してはオーストラリア政府が「国益を損なう」と反対し、後者に関しては、ロンドン証券取引所に経営主導権を握られることを懸念したカナダの大手銀行や公的年金などの連合がTMXグループに対し敵対的買収提案を行うなどしたことから、合併に必要なTMXグループ株主からの賛同が得られなかった。

“独占禁止の壁”の例は、ナスダックOMXグループとICEの連合がNYSEユーロネクストの買収を試みたが、米司法省から独占禁止法上の承認を得ることが困難として買収を断念したケースがある。また、現在NYSEユーロネクストとドイツ取引所が合併に向けて準備を進めているが、報道によれば、欧州委員会は欧州の金融派生商品(デリバティブ)市場の売買シェアについて独占禁止法違反を懸念しており、これが解決されなければ合併を承認しない構えであるという(同委員会は2月9日までに承認の是非を最終決定する予定)。この件に関しては、米司法省も「ドイツ取引所側が保有する米電子取引所の持ち株を全て売却すること」を承認の条件として表明している。

日本においては、東証と大証が経営統合で合意し、日本取引所グループ(仮称)の発足に向け準備を開始している。また、金融庁・農林水産省・経済産業省は「総合的な取引所検討チーム」を結成し、証券・金融・商品の垣根を越える総合取引所の実現に向けて検討を続けている。

東証と大証の経営統合に関しては先の2つの“壁”のうち、“ナショナリズム”は影響しないであろうが、“独占禁止”に関しては現在、公正取引委員会で審査が行われており、今後の動向が注目される(1次審査の期限は2月3日)。

「総合的な取引所」に関しては、検討チームが2010年12月に発表した中間整理において「平成25年の総合的な取引所の実現を目指して速やかに制度施策を実現する」と示されており、報道では1月24日召集の通常国会に法案が提出される方針であるという。具体的な法案の内容は今後明らかになっていくであろうが、東証と大証の経営統合の成功なくして「総合的な取引所」の誕生は難しい。また、総合取引所が実現したところで、業者や投資家が使いやすい仕組みにしなければ意味がない。本稿執筆時点で各省庁のウェブサイト等を確認する限り、2011年7月を最後に検討内容が公開されておらず、懸念が残る。

世界では取引所の再編に不透明感が漂い始めているが、それは日本の取引所が現状のままでよいという理由にはならない。先立って経営統合を決定した東証・大証だが、株式市場では相場の低迷が続き、上場企業数も減少傾向にある(※1)。グローバル競争力強化のため、取引所自体がより強固な企業体質になることが急務と思われる。投資家や発行体をはじめとする利用者全般に、今まで以上に使い勝手の良い取引市場が提供されることを願いたい。

(※1)上場企業数の減少に関しては、太田珠美「上場会社数の減少が続く国内証券取引所」(2011年12月27日 大和総研)を参照。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美