格付けビジネスへの規制強化の年
2012年01月18日
忘年会や新年会の幹事になるとどの店に予約をするか、頭を悩ますことも多い。そうした際に参考にするのは、インターネットの口コミグルメサイトだが、最近あるグルメサイトのランキングに操作が加えられた疑いのあることが明らかになった。厚い信頼を寄せていたわけではないが、あのようなランキング情報の利用には注意が必要だということに改めて気付かされた。年初から欧州諸国国債の格下げが行なわれており、欧州国債危機は、今年も市場を振り回すことになるだろう。しかし、格付け自体は発行体の信用状況を集約して示す記号にすぎず、格付けが発行体の信用状況を直接左右するわけではない。グルメサイトでのランキングが上がったからといって、そのレストランの味が上がるわけではないのと同じだ。とはいえ、格付けの変化に対応した投資家の行動が国債の価値を下落させているのだから、国債をお勧めしているレストランのオーナーである各国の政府としては面白くない。
現在、欧米では格付け産業の影響力を縮減するために様々な方策が試みられている。米国では、証券取引委員会(SEC)による格付け会社の調査・監督が強化されるとともに、格付けの公的利用を制限しようとしている。格付けの公的利用とは、MMFなど特定の金融商品を組成する際には、一定以上の格付けのある資産の組み入れを義務付ける規制などだ。格付け会社の情報が証券・金融行政に組み込まれ、格付けの利用が強制されたため、民間の一営利企業である格付け会社の影響力が過大になっていた。連邦準備銀行(FRB)や通貨監督庁(OCC)は、格付け以外の信用情報(たとえば負債比率や株価のボラティリティなどを総合的に勘案する)の利用に関する規則の検討を重ねているところだ。グルメサイトの運営の適正化を指導すると共に、利用者へ注意を促すようなものであろうか?
一方、欧州では、米国と同様の改革に加え、救済の必要がある場合には、格付け会社に対して国債格付けを禁止することも一時検討された。評判が落ち目の国債レストランにとどめを刺すような評価は公表させないということだ。
格付け業界に対する批判の歴史は長い。遅くとも1970年代には、格付けの正確性に対する疑念は呈されているし、監督官庁からの規制は、たびたび強化されてきた。また、発行体が格付け費用を支払うビジネスモデル自体、利益相反の可能性を内包しているとの指摘はわずかな例外はあるが今も妥当する。このように解決されない多くの問題が残ったままであるが、格付け情報は、もはや証券市場に欠かせないものとなっており、この現実は今後も変わることはあるまい。格付けの対象となっている金融商品はいまや100万を超えており、一つ一つの信用状況を個々の投資家が判断することは事実上不可能だ。格付けがないとなれば国債を発行するにも滞りが生じるだろうし、投資家は戸惑うだけであろう。
格付けの利便性を維持しつつ、その弊害を抑えるための規制動向に注目しておきたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
政策調査部
主席研究員 鈴木 裕
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日

