中国の省エネ・環境保護強化のリスクとチャンス

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2011年11月22日

中国国務院(内閣)は、2011年9月に2015年までの省エネ・汚染物質排出削減の基本方針となる「第12次5ヵ年計画の省エネ・汚染物質排出削減総合活動計画」を発表した。具体的には、2015年までの5年間で、(1)単位GDP当たりエネルギー使用量を16%削減する、(2)CODとSO2は排出量自体を8%削減し、アンモニア性窒素と窒素酸化物は10%削減する、ことを目標に掲げている。以下では総合活動計画で重要な3点についてコメントしたい。

第1は、排出削減目標が、地方政府、主要企業の年度評定に組み込まれることが明記されたことである。さらには、四半期毎のモニタリングも実施することで、実効性を高めようとしている。2011年は主要汚染物質の排出を前年比1.5%削減することが目標であるが、1月~6月の実績は、SO2は前年同期比1.7%減、CODは同1.6%減、アンモニア性窒素は同0.7%減であったのに対して、窒素酸化物は同6.2%増とむしろ大きく増加してしまっている。窒素酸化物の排出は発電所と車両で大半を占めており、今後は、発電所の脱硝設備の設置、大型ディーゼルバス・トラックの廃棄と買い替えなどが進められる必要があろう。

第2は、省エネ・環境保護強化のリスクとチャンスである。「総合活動計画」では、電力、石炭、鉄鋼、非鉄金属、石油石化、化工、建材、製紙、紡績、染色の旧式設備の廃棄が進められ、同産業の生産急増は抑えられ、旧式設備の廃棄を前提としない新規投資や輸出も抑制される。当然、「両高」産業(高エネルギー消費・高汚染物質排出産業)の生産や投資が急増すれば、省エネ・環境保護にはマイナスとなるので、従来のように生産・投資抑制が行政命令で進められ、景気の下押し要因となるリスクは残る。

一方で、省エネや環境保護に繋がる投資は推奨されるというプラス面にも注目したい。例えば、国家電網は今後5年間で1.6兆元(約19.4兆円)を投じてスマートグリッドを建設する計画を発表し、2012年から実施される火力発電所の排出基準の厳格化では、発電施設の改造や脱硫脱硝設備の設置に2,600億元(約3.1兆円)の投資が必要とされている。さらには、エネルギー使用量と環境負荷の低いサービス産業と戦略的新興産業(省エネ・環境保護、新世代情報技術、バイオ、ハイエンド装置製造、新エネルギー、新素材、新エネルギー車)の育成が重点とされたことは成長促進要因として注目されよう。

第3は、省エネ・汚染物質削減に関する地域毎のメリハリをつけた目標設定である。第12次5ヵ年計画が発表された2011年3月時点の各地方政府の削減目標は、ほぼ国家目標と見合いであったが、今回の「総合活動計画」では、経済の発展度合いがより進んだ東部沿海地域の削減目標が上方修正された一方、発展段階が相対的に遅れた西部地域は下方修正されたという特徴がある。産業の発展段階でいえば、東部沿海地域でサービス化が進んでいる一方、中西部地域はむしろこれから工業化が進展していく段階にある。メリハリをつけた削減目標の設定は、経済の発展段階を反映したものであり、東部からの製造業移転を含む、中西部の比較的高い経済成長が想定されていよう。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登