株式配当金と従業員ボーナス—フランス新法の試み

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2011年10月25日

ウォール街占拠運動に見られるように、一部の資本家・企業家層に対して富を独占しているという批判が世界的な高まりを見せている。企業が産み出した価値で豪奢な暮らしを送る人がいる反面、多くの人々が職もなく暮らしに困窮し、貧富の差が拡大しつつある現状を変えようとする運動だ。

企業が創り出した価値は、配当や株価上昇という形で資本家を潤すこととなる。企業に働く従業員は、賃金上昇によって企業価値の分配を期待することはできる。しかし、それを決めるのは資本家によって選任された経営者達であるから、従業員の期待が実現するかどうかは資本家達の意向次第だ。

フランスでは、こうした現状を打破する可能性のある新制度が実施される。50名以上を雇用する企業が株主への配当を増額した場合に、従業員へのボーナスなど金銭的な分配を増加させる新制度が導入された。ここで配当の増額とは、当年度の配当が過去2年平均よりも増加している場合を言う。配当増額によって株主が利益を得る一方で、賃上げが進まない従業員の不満を解消することを目的としている。サルコジ大統領が公約としてきたこの政策は、世界的な金融不安の中で実現を先送りされてきた。しかし、2012年の大統領選挙を控えてこの7月に議会を通過し、法律が成立した。選挙目当ての人気取りという見方もあるが、経済危機の間忍耐を強いられた労働者に今後いかに報いていくか、目に見える形で明らかにしたものと言えよう。

とはいえ、企業側の反対は強く、結果的にはボーナス支給を回避するいろいろな逃げ道が用意され、実効性に疑問のある制度になっている。ボーナスの額や支給時期は労使の協議に委ねられるし、協議が調わない場合には、企業側に決定権があるとされているなど、実際上の運用で骨抜きになるおそれがある。また、資本家層への利益配分の経路は、増配だけでなく株価上昇という道もあるのだから、増配時だけを問題にするのであれば、株価高騰の一方で低賃金の継続という事態も生じ得る。

このように問題含みの試みではあるが、企業の利益配分ルールを変えるものであることは確かだ。企業業績の回復によって配当が増加することで、従業員の賃金も上がり消費が活性化すれば景気が刺激され、ひいては格差是正につながるというポジティブな循環を期待できる。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕