英国事情:高給バンカーの報酬が「政争の具(politicalfootball)」に
2011年10月04日
欧州危機が叫ばれるなか、「シティ」ことロンドンは、「世界一の金融センター」という肩書きを死守している。2011年9月26日に公表された“Global Financial Centres Index 10(GFCI 10)”(※1)が明らかにしている(図表1参照)。
このように金融立国である英国では、金融危機を招いた銀行セクターにおける巨額の報酬に対するネガティブな国民感情が根強い。今年の2月には、大手銀行と政府との間で、報酬抑制等に関する平和協定である“Project Merlin”が合意されたことは記憶に新しい。
こうした国民感情を代弁する役を買って出るのが、ビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS)のヴィンス・ケーブル氏(自由民主党)である。ケーブル氏は銀行セクターに対する強硬な姿勢を一貫しており、メディアに取り上げられる同氏の発言の多くが銀行セクターの報酬システムに対する批判である。
そのようなケーブル氏の率いるBISは、2011年9月19日、上級役職員(executive)の報酬抑制に関するコンサルテーション・ペーパー(CP)を公表している。CPは銀行セクターのみを対象としたものではないが、これまでのケーブル氏のスタンスから、メインターゲットが高給バンカーの報酬であることが想定されている(※2)。
CPは、上級役職員の報酬に対する株主の投票権、いわゆる“say on pay”(※3)に、法的拘束力を与えることを提案している。米国のドッド=フランク法でも“say on pay”が導入されているが、法的拘束力までは認められていない。
非常に刺激的な提案ではあるが、“say on pay”に対する法的拘束力の付与には法改正が不可欠であることから、早期の実現は困難であろう。
ケーブル氏が所属する自由民主党と連立政権を形成している保守党は、銀行セクターに対してはもう少し温和なスタンスをとっており、その点がケーブル氏による批判の対象となっている。こうしたことから、英産業連盟(CBI)が懸念するように、高給バンカーをはじめとする上級役職員の報酬が「政争の具(political football)」となっている感は否めない。
こうした状況は、金融立国である英国にとって、その地位を保持する上で、好ましいものとは言えないだろう。
(※1)“Global Financial Centres Index(GFCI)”は、ロンドンの大手民間シンクタンクであるZ/Yen Group等が定期的に公表している、世界の金融センターの動向分析である。“GFCI 9”は、2011年3月に公表されている。
(※2)FT.com“Cable keeps up pressure on banks”[2011年9月20日]参照
(※3)英国では、上場会社の役員報酬に対する“say on pay”が、2002年より導入されている。
(※2)FT.com“Cable keeps up pressure on banks”[2011年9月20日]参照
(※3)英国では、上場会社の役員報酬に対する“say on pay”が、2002年より導入されている。

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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
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