英国の暴動は何を示唆するのか?
2011年09月06日
燃える車、破壊される建物、強盗に押入る多数の若者・・・イギリスで8月に起きた暴動を報じる映像は、どれも目を疑うようなものばかりであった。この暴動は世界各国で報じられ、国内では「イギリスの恥」とも囁かれた。これに際し、キャメロン首相は休暇を切り上げて帰国し、暴動の鎮圧に全力で立ち向かう決意を表明。強盗容疑や、フェイスブックでの暴動扇動を含め、1200人を超える容疑者が法廷で裁かれているという(8/16時点)。
この暴動の原因は何だったのか。事の発端は、ロンドン北部の都市で青年(Mark Duggan氏)が警察官に射殺された事件であった。しかしその後各地に広がった暴動を見ると、これはただのきっかけにすぎなかった。暴挙に出た大半が若年層であったことから、メディアでは若年層の失業率問題がクローズアップされた他、暴動鎮圧に対する警察の対応に遅れがあったことが問題視された。
キャメロン首相は、暴動が「モラルの低下」に起因しているとし、「壊れかけたイギリス社会(Broken society)」を立て直さなければならないとコメントした。具体的には、家族の絆の脆弱化、教育水準の低下、福祉の問題を指している。これには、13年に亘る労働党の福祉政策への批判も暗に示していると考えられる。対して労働党のミリバンド党首は、暴動の原因が「貧困」にあるとし、それを否定している与党の認識の甘さを批判。更に、無責任な銀行やメディアにまで非難の矛先を向けた(その背景には、金融危機やメディアの盗聴問題がある)。
他方、世論はどのように見ているのだろうか。YouGovの統計によると、暴動の原因として「犯罪行動」、「親の責任能力不足」が上位に挙げられている。メディアでクローズアップされた警察の対応や、若年層の失業問題、政府の財政支出削減はどれもランキングの下位にある。つまり、今回の暴動の責任を「社会」に追求しているのではなく、「個人」の問題として捉えているようである。世論は、予想以上に冷静にこの問題を捉えているようだ。
暴動の原因は複雑で、一概に特定できないことは確かである。しかし政策側は、暴動の原因追求を各党の政策批判にすり替え、政争の具としてはならないだろう。また、問題を第三者(たとえば、銀行、メディア、警察など)に擦り付けるだけで、事件の本質を見失ってはいけないだろう。その点で、(まだ話題には上がっていないが)懸念事項として考えられるのが移民政策である。キャメロン政権下では移民政策が厳格化している。これが今回注目された若年層の失業問題と結びつき、更なる保護主義的な政策が打ち出される事態に陥った場合、問題の本質は更に見失われるだろう。
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経済調査部
シニアエコノミスト 増川 智咲