日中経済交流のさらなる深化の鍵を握る「秩序ある技術移転」
2011年08月23日
日本貿易振興会(JETRO)によれば、日本の中国への直接投資は第4次ブーム到来の兆しを見せている。従来、日本の対中投資は製造業が中心であったが、最近では卸売・小売業、金融業など非製造業の進出が目立っている。製造業では、中国を起点とした東南アジアなど新興国への進出が進んでおり、新たな潮流も感じられる。
日中貿易も拡大しており、中国にとって、日本は最大の貿易赤字計上国である。2001年までは貿易収支はおおむね均衡していたが、2002年に50億ドルの貿易赤字(日本にとって貿易黒字)を計上して以降、その額を拡大させており、2010年には556億ドルの赤字を計上した。品目別では、日本が技術力を背景に国際競争力を高めてきた機械・電気機器、輸送機器等の対日貿易赤字が拡大している。
東日本大震災をきっかけに、日本が世界に提供していた高性能部品や製品を中国が代替するとか、中国が被災した日本企業の海外移転の受け皿として機能するといった話を聞くが、中国企業による高性能部品・製品の代替は技術的に難しいところもある。
では、被災した日本企業が中国に生産移転することは、日本企業にとってリスク軽減につながるのだろうか?今回のサプライチェーンの問題は、リスクが露呈したのではなく、日本の技術力・競争力を再認識させたともいえる。中国が世界の工場と称されて久しく、日本企業も中国への直接投資を積極的に行い、日本の空洞化が懸念されることもあった。しかし、既述のように、中国にとって日本は最大の貿易赤字計上国であり、2002年以降その金額はおおむね増加している。言い換えれば、日本は価格競争力が問われる産業や汎用品の部材生産・組み立てを中国に移転し、技術含有量が多く、付加価値の高い産業やキーコンポーネントの生産を日本に残すことで、競争力を維持してきたのである。
今後、中国の労働集約的産業は、労働コストの増加や元高進展などによって、競争力が低下していくとみられる。中国が、産業構造の高度化・高付加価値化を進めるためには、今まで以上に日本企業からの協力が不可欠になろう。中国の経済発展がより深化することは、当然、日本の産業界にもプラスである。
日中経済交流のさらなる深化を通じた相互利益のますますの拡大が期待されるわけだが、その鍵を握るのが、「秩序ある技術移転」の成否である。日本側からは「中国に技術をタダ取りされる」、中国側からは「日本は技術移転に消極的でビジネスチャンスを失いかねない」との声が聞かれるのが現状である。
日本を含めた外国企業が中国市場に参入する場合、技術供与を要求されることがある。特に中国政府が戦略産業と位置付ける分野では技術移転要求や国産化要求が強い。しかし、対価のない技術供与はない。「秩序ある技術移転」は「きちんと対価の支払われる技術移転」と言い換えても良い。日本を含めた外国企業が安心して中国ビジネスを強化し、相互利益を一段と拡大し、さらにそれに持続性を持たせるためにも、知的財産権保護や「秩序ある技術移転」の浸透・強化が望まれよう。
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経済調査部長 齋藤 尚登
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