減る方がうまくいく

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2011年07月28日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
7月13日に「電力供給不足問題と日本経済」と題するレポートを発表したところ、多くの反響をいただき、この問題への関心の高さを実感した。それにしても、電力危機が発生するか否かについて、論者により見通しに大きな違いが生じるのはなぜだろう。

電力供給は、例えば火力発電の稼働率をどこまで引き上げられるとみるかで、かなりの差が出る。また、この問題は地域差が大きく、電力事業者間で技術的にどのくらいの電力融通ができるかもポイントだ。風力や太陽光を用いた発電の導入でうまくいくというなら、そのコストがどれだけかを明示しなければならない。

一方、電力の需要側で首尾よく節電やピークシフトができると想定すれば、需給がひっ迫しないシナリオもありうる。しかし、節電やピークシフトには様々なコストがかかり、需要者にとっては負担に他ならない。少し前に、観光戦略上の社会実験で休日分散化が必ずしもうまくいかなかったように、生産の時間帯を急に変えることはそう簡単ではない。

電力需要を抑制するには、時間帯や曜日、季節などに応じて料金を大胆に変動させるのが一案だろう。料金引き上げは負担だという批判があるが、一律の電力使用制限や輪番停電こそ経済の効率を損なう負担である。ある程度高くても、料金を支払えるだけの付加価値を産み出す産業や、真に電力を必要とする需要者が電力を購入できる方が、経済全体にとってプラスだろう。

長い目でみれば、電力不足は我々の生活や生産活動を進歩させるに違いない。ふんだんにあるものはそのコストが意識されなくなり、人々は工夫をしなくなる。70年代のオイルショックがそうだったように、新しい技術や新しい社会構造は、「不足」と「価格上昇」がもたらす。長期的な成長率は、資源国よりも資源がない国の方が高いのである。

少し飛躍があるが、社会保障も同じかもしれない。部分的なほころびがあるとはいえ、全体では巨額の社会保障が給付されている。夫婦で月額20万円超、総額約50兆円の公的年金は1円たりとも減らせないようだが、政権公約の半分に過ぎない月額1.3万円、総額2.7兆円の子ども手当は減らされそうである。就職できない新卒者や希望通りの正規雇用に就けない若者が多いのに、引退層向け給付を見直さないというのはおかしくないだろうか。

潤沢な社会保障は、もはや日本の将来見通しを暗くする理由になっている。医療と介護も含めれば約90兆円の社会保障を少しだけ減らし(増加を抑制し)、社会保障のための増税で受給者がコスト意識を持つようにする。そうしないと、日本の社会は新しいステージに進むことができないのではないか。

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鈴木 準
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