配当方針等の変更件数の減少は一時的か?

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2025年11月28日

足元では、株主への利益還元方針(配当方針等)を変更する企業数のトレンドが、変わってきたようだ。月間の開示件数を前年同月と比べると、今年1月から5月まではいずれも上回っていたが、6月から一転して下回り続けている(11月は21日までの比較)。

もっとも、配当方針等の変更件数の減少自体が、投資家とのコミュニケーションに対する上場企業のトーンが下がったことを意味するわけではない。例えば、「配当性向××%」を継続する企業では、「この企業の1株あたり利益は●●円になりそうだから、おそらく1株あたり年間配当金は▲▲円になるだろう」との見通しが立ちやすく、投資家との意思疎通が良いと評価できる一面もある。

最近の変更件数の減少の一因に、変更したタイミングの影響もありそうだ。そもそも、配当方針等を見直す企業が急増したきっかけは、2023年3月に東京証券取引所(東証)がプライム市場とスタンダード市場の上場企業に行った「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請である。これを受け、多くの企業は、「中期経営計画」(中計)を更新する際等に、配当方針等を具体的に記載するようになった。中計の期間は3~5年が多いことを考えると、東証の要請から2年が経過した今年の下半期は、配当方針等を見直す動きが一巡しているのかもしれない。

また、2023年3月以降の動きは、プライムやスタンダード市場の上場企業の中で、相対的に中規模の企業が中心だったことも関係しているだろう。東証による規模別分類では、時価総額や流動性等の規模区分がある。例えば、規模が大きい上位500社(TOPIX500)、それ以外のTOPIX構成企業(2025年10月末時点で1,172社)、TOPIX非構成企業(同1,500社)である。前二者について配当方針等を変更した企業の比率を比較すると、TOPIX500企業では18%だったのに対し、それ以外のTOPIX構成企業では28%と10ポイントほど高い。まだ7割強の中規模の企業が変更していないことにはなるが、変更の必要がないと考える企業もあることを考えると、これまで変更した企業の比率は「意外と高い」とも言えそうだ。加えて、この中型株の中には、今回初めて「配当性向××%」、「累進配当」、「1株あたり年間配当金は××円を下限」といった具体的な目標を掲げた企業も多い。となると、進行中の中計に大きな修正が生じなければ、配当方針等のみを変更する理由、動機付けも小さいだろう。

このようにみると、今年の初めからの累計の開示件数は354件と2024年の年間321件を既に上回って過去最高を更新しているものの、2026年は減少に転じそうな気配である。しかし、別の見方をすれば、これから多くの上場企業では、2023年3月以降に掲げた中計の振り返り、評価、見直すポイント等の説明が、投資家等から問われる局面を迎える。自社を取り巻く環境の分析と、今後の成長と株主還元とのバランスに対する考え方次第で、配当方針等の変更を行う企業も現れよう。足元の減少傾向は当面続くものの、2026年後半以降は底堅く推移するのではないだろうか。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏