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デフレ下のマクロ経済スライド実施に理解を

2011年07月26日

金融調査部 主任研究員 是枝 俊悟

報道等ではあまり注目されていないが、政府・与党の社会保障と税の一体改革の成案において検討課題とされた重要な論点がある。公的年金(国民年金・厚生年金)の「マクロ経済スライド」の実施方法についてである。

マクロ経済スライドは、少子高齢化に対応するため、実質的に年金支給額を抑制すること

2004年に改正される前までは、年金支給額は完全自動物価スライド制であり、前年の物価変動率が自動的にその年度の年金支給額に反映される仕組みであった(※1)。2004年の年金制度改正の際にマクロ経済スライドが導入され、その年度の年金支給額を「前年の物価変動率」ではなく、「前年物価変動率から平均0.9%を差し引いた率」で改定する仕組みとなった。

この「平均0.9%」という率は、年金を支える力(現役世代の人口)の減少や平均余命の伸びを反映した率である。平均0.9%ずつ毎年実質的な年金支給額を抑制することによって、少子化により現役世代の人数が減ったり、平均寿命の伸びにより年金受給期間が延びたりする分を調整でき、年金制度が持続可能となる。

現行法ではデフレ下ではマクロ経済スライドを発動できず

2004年度時点の想定では、2007年度からマクロ経済スライドを発動する予定となっていたが、現行法ではインフレにより物価が一定以上にならないとマクロ経済スライドを発動できない仕組みとなっており、2011年度現在でもなおマクロ経済スライドは発動されていない。そのため、実質的な年金支給額の抑制は未だに行われていない。

法改正により、デフレ下でもマクロ経済スライドを実施可能とする必要がある

デフレであっても現役世代の人口の減少や平均余命の伸びは止まらない。その分の給付の抑制ができないならば、年金財政は悪化し、現役世代にツケが回る(保険料や税の負担増や、現役世代が将来年金を受給する際の受給額の減少となる)。現状でさえ「孫は祖父より1億円損をする」(※2)とまで言われる世代間格差をさらに拡大させることは、あってはならない。

デフレ下においてマクロ経済スライドを実施した場合、年金受給者にとっては年金の名目額が目に見えて減っていくという、実感としての「痛み」を被る。だが、現役世代は既にデフレによる名目の給料減少という「痛み」を被っている(※3)。デフレの痛みについて、現役世代だけでなく年金受給者も分かち合うことは、制度の公平性の観点からも望ましく、年金受給者にも理解してもらえるのではないだろうか。

政府・与党には、ぜひともデフレ下でもマクロ経済スライドを実施できるように法改正を求めたい(※4)

(※1)完全自動物価スライドの下では、物価が下落した際には年金支給額を減らさなければならない。しかし、2004年以前においても、物価が下落した際に、その下落率を年金支給額に反映させない(維持させる)特例法の制定が繰り返されていた。
(※2)新書のタイトルである。島崎諭・山下努『孫は祖父より1億円損をする~世代会計が示す格差・日本』朝日新書、2009年。(※3)国税庁「民間給与実態統計調査」によると、年間給与所得者の平均給与額(名目の金額)は、1999年は461.3万円であったが、2009年は405.9万円であり、この10年間で約12%減少している。
(※4)政府や日本銀行が金融・財政政策を実施してデフレ脱却に取り組むことは大事である。その結果デフレを脱却できたならば、「デフレ下でもマクロ経済スライドを実施できるようにする措置」は結果的に必要なかったということになる。だが、今後もデフレが継続する可能性もある。その場合であっても年金制度を持続可能とするために、保険をかけておく必要はあるだろう。

詳細については、拙稿「政府・与党の社会保障と税の一体改革成案の分析」を参照。

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是枝 俊悟

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金融調査部
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