持続的成長のために必要な雇用構造の改善
2011年07月05日
8月に発表される2011年4-6月期の実質GDPは、震災の影響や消費不振などもあってマイナス成長となる可能性が高い。そうなれば3四半期連続のマイナス成長となり、2001年の景気後退期に並ぶ。こうした厳しい状況を乗り越えるためにも、早期に電力不足問題を解決し、生産性を高めるような復興計画を着実に実行していくことが必要であろう。
しかし一方で、持続的な成長を達成するためには非正規比率の上昇で景気変動に脆弱な雇用構造を変えていく必要がある。雇用構造が脆弱になるほど、生産活動の停滞が個人消費に与える悪影響が大きくなり、また景気拡大局面での消費の復調が鈍くなるからだ。下図は最近の景気拡大期と後退期における雇用者数の変化を雇用形態別にみたものである。データ制約から、(1)2002年1-3月から2007年10-12月までの景気拡大期、(2)2007年10-12月から2009年1-3月までの景気後退期、(3)2009年1-3月から2010年10-12月(直近値)までの景気拡大期、の3つの期間を比較している。
一般的に、雇用者数は景気拡大期に増加し、後退期に減少するが、その傾向はグラフでも見て取れる。ただし雇用形態別に動きをみると、すべての職種の雇用者が景気拡大期に増加したわけではなく、非正規社員にかなり偏った形で増加した。例えば、図の左側の棒グラフは戦後最長の景気拡大期における雇用者数の変化幅を表しており、約250万人の雇用者が増加したが、その期間で正規社員はむしろ約70万人減少した。また正規社員はその後の景気拡大期でも減少している。一方、非正規社員はリーマン・ショック後の派遣切り批判を受け、製造業派遣や登録型派遣が規制される労働者派遣法改正案が提出されたことなどから、2009年1-3月からの景気拡大期での雇用拡大はほぼパート・アルバイトに限られた増加となっている。
正規社員と比べて雇用が不安定で所得水準の低い非正規社員の割合が高まれば、今回の大震災のようなショックがあると失業者が増加しやすくなる。また、現時点で失業していないとしても、将来の雇用不安は正規社員よりも高いとみられることから、マクロ全体の貯蓄率が高まりやすくなり、その分だけ消費支出が減りやすくなるとみられる。現在は雇用調整助成金がセーフティーネットとして張られており、震災後は支給条件が緩和された。こうした雇用対策は一定の効果を上げていると思われる。しかし、より根本的な問題である、正規と非正規との間で雇用者の移動が硬直的な現状を改善し、非正規の雇用者にとりわけ大きな生活不安を与えている現状を変えていくことが、持続的な成長を実現する上で必要であろう。

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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 神田 慶司
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