揺れる
2011年06月16日
ニューヨークの地下鉄はよく揺れる。線路が問題なのか、車体の問題か、それともダイヤの乱れを取り戻そうと、運転手がいつもよりもスピードを出しているためかは素人には分からないが。これでもかというほど加速してからブレーキをかける。例えば、Expressでは停車駅の一駅前から減速する場合もあれば、細かく加速と減速を繰り返す場合もある。従って、カーブを通過する際の左右の揺れの他に、前後にも対応する必要がある。加えて、東京の地下鉄に比べると掴まるところが少ないし、大柄な人が手すりを占領すれば当然ながら掴まられるスペースも小さくなってしまう。東京の満員の通勤電車のなかでバランス感覚を磨いてきたつもりだが、ニューヨークの難度は高い。こちらの人は重心が低いためか、揺れに振り回されにくいのかもしれない。
ちなみに、ニューヨークの地下鉄は週末によく工事をしており、ダイヤが平日と大きく異なる。スキップなどの路線変更は日常茶飯事だ。今夏に旅行を計画されている方は、特に週末、MTAのページで確認されることをお勧めする。100%ではないものの、一目で遅延や工事状況を把握できる。
アセラ・エクスプレス(Acela Express)も揺れる。ワシントンDCとボストンを結ぶ高速鉄道だが、最近その一部区間に乗る機会があった。車両はきれいで、座席も広め。フィラデルフィアを出発してスムーズに加速したが、車体が細かく揺れる。日本の新幹線と比べると揺れが大きく感じられ、机の上で文字をきれいに書くことは難しい。また、距離の割には時間がかかるという難点がある。確かに、時速200キロ以上で走る区間もあるのだろうが、低速で徐行する区間が長いために、平均時速に直すとかなり遅くなる計算だ。ある区間ではニューヨークの地下鉄よりも遅いスピードで走っている感覚だった。これでは、せっかくの新型の車両でもその能力を十分に発揮しているとは言い難い。
また、やや話はそれるが、アセラなどは全席自由席である。どこに座ってもいいという気楽さはあるが、混んでいると、空いている席を探して車両間を歩き回らなければならないリスクも。つまり、速度以外にも、効率性を改善する余地があるとみられる。オバマ政権は、2009年の景気対策のなかでインフラ整備、なかでも全米における高速鉄道計画を掲げたが、補助金の配分が決まっても、フロリダ州のように建設計画を白紙に戻すケースも出ている。順調に進んでいるとは言い難く、景気の押上げ効果云々のレベルではないだろう。
一方、3月に発生した東日本大震災によるサプライチェーン問題の影響がマクロ経済指標に顕在化するなど、足もとの米国経済は揺れている。FRBが発表したベージュブックによると、部品不足による自動車生産の減少やその供給制約を受けて新車販売の低迷、自動車だけでなくハイテク企業からも悪影響が出ているという報告が上がっている。震災の影響を過小評価するのは禁物だが、生活者の立場からすると、ニューヨークの地下鉄の揺れの方が気になってしまう。
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也
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