ロンドンオリンピックまであと1年

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2011年06月01日

2012年7月27日、ロンドンでオリンピックが開催される。それに先立ち3-4月には、開会・閉会式や競技観戦のチケット申し込みが行われた。最高価格が2,012ドルであると言われる開会式のチケットを含め、約半数以上の競技が応募多数のため抽選で決定されるという。オリンピック期間中には、約30万人(報道ベース)もの観戦客がロンドンを訪れるとされており、その経済効果は大きいだろう。またオリンピック委員会は、オリンピック開催にあわせてリクルートメントも行っており、多数のポストを提供している。依然弱い労働市場にとって多少なりともポジティブとなろう。このロンドンオリンピック開催に際し、ボリス・ジョンソン市長は、「ロンドンを最高の旅行先として宣伝する『絶好の機会(golden opportunity)』と発言している。しかし、これを阻む問題が少なくとも2点考えられる。

1つ目は、オリンピック期間のホテル料金値上げである。欧州旅行産業委員会(European Tour Operators Association)によると、これまで開催されたオリンピックではいずれも、来客数と来客の滞在期間が過剰に見積もられており、その結果需要を反映していないホテル料金設定が行われていたという。シドニーではオリンピック期間中13万人の来客を見積もっていたところ実際は9万7千人、北京では8月中に40万人の来客を予想していたところ、実際のところ23万5千人と大きな乖離があった(いずれも、欧州旅行産業委員会が出した数字)。その結果深刻な問題として挙がったのが、このホテル料金値上げで、通常の観光客を遠ざけてしまうという反動であった。ジョンソン市長はこのような事態を避けるため、業界主導の「適正価格宣誓書」に署名をするよう、ホテル業界に呼びかけている。

また、ロンドン市長を悩ませているだろう2点目の問題として、開催期間中のインフラ事情が挙げられる。ロンドン市内には、Tubeと呼ばれる地下鉄が通っているが、その使い勝手が悪い。信号の不具合や線路の問題で地下鉄が止まったり、急に行き先が変更されたりすることは日常茶飯事である。それに加え、時には入場制限を行うまでにオーバーキャパシティーとなってしまう混雑に通勤者は辟易としている。このような状況に鑑み、ロンドン地下鉄は毎週末一部の線を閉鎖して、オリンピックに向けた整備を進めている。それにもかかわらず、不安を拭えないのが実情だ。当局は、ロンドン市民の3分の1がオリンピック開催期間中の通勤スタイルを変えることで、オーバーキャパシティーを乗り越えようとしているそうだ。つまり、フレックス制の導入や自宅就業を促すという方法である。これに対し、民間企業が寛容に応じるかについては不透明だ。

果たして、依然経済回復力の弱いイギリスに、オリンピック開催がどれだけの経済効果を生みだすのか、またこれを機に、ロンドンがインフラ面で「住みやすい街」へと変貌を遂げるのか、注視したい。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲