インフレと人民元レート

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2011年05月23日

「インフレと人民元レート」と書くと、「輸入インフレ抑制のための元高誘導加速」の話と思われるかもしれない。しかし、この2つに共通するのは、政治・社会問題が、経済問題に優先されがちという中国独特の事情である。

インフレ抑制について、中国人民銀行は2011年に入って引き締めグリップを明確に強化している。預金準備率は1月~5月まで毎月引き上げられ、現在は21.0%と過去最高を更新中であるし、2月と4月には利上げを実施した。その一方で、国家発展改革委員会は2月にコメの国家買入価格を大幅に引き上げ、各地方政府は2010年に続き2011年も最低賃金を大幅に引き上げている。

インフレ抑制に対して政府が一枚岩ではないのでは?との疑問がでるのは当然である。この答えが、政治・社会政策(所得再分配、特に低所得者層の底上げ)と経済政策(インフレ抑制)で、最重点課題が異なっており、それぞれのプライオリティに従って任務が遂行されている事実であり、往々にして政治・社会問題が経済問題に優先されるという中国独特の事情である。インフレがさらに高進すれば、経済問題から政治・社会問題に格上げされる可能性があるが、現状ではそこまで深刻とは認識されていない、ということなのであろう。

4月下旬に面談の機会を得た中国社会科学院の著名エコノミストは、人民元レートについて、「経済理論からは絶対に切り上げるべきである。インフレ上昇期であればなおさらだが、ネックは政治的・社会的な問題である。元高による輸出減少→生産低下→雇用減少、という経済問題で収まるのであれば問題はない。しかし、そのために政治・社会が不安定化するのは、党・政府には我慢ならない話であり、急速な元高に慎重な背景となっている」と総括していた。ここでも政治・社会問題が経済問題に優先されている。

大和総研では、第18回共産党大会が開催される2012年の中国経済は、政績(政治的成績)向上を目的に地方政府を中心とした景気拡張に走るために景気過熱リスクが高まると予想している(こうした見通しは恐らく少数派であろう)。この背景もやはり、政治・社会問題>経済問題という構図なのである。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登