「想定外」に対応するには

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2011年04月14日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0と国内観測史上最大の規模となり、防災上の想定を遥かに超えるものとなった。とくに、津波の高さにおいて顕著な想定外が生じたことで、多くの人命が奪われ、同時に深刻な放射能漏れ事故につながってしまった。福島第一原発において想定されていた津波の高さは5.7mだったのに対して、今回の震災では14mもの高さの津波が押し寄せ、全ての電源が喪失し、その後の深刻な状況を引き起こした。

もし、15mあるいは20mクラスの津波を想定した対策を取っていたら、当然ながら状況は変わっていた可能性が高い。とくに原発事故に関しては、“人災”と指摘する向きもある。こうした想定外の事象が起きた時には、必ずと言って良いほど「なぜ想定しておかなかったのか」という議論が沸き起こる。そしてその度に安全基準などを引き上げる措置が取られるが、その想定をも上回る事象が起こることも少なくない。まさに、この繰り返しである。

経済事象を扱う筆者らにとっても、この繰り返しは身近なことである。つい最近起こったリーマンショックが、まさに社会科学的に起こった“想定外の事象”であった。今回の震災は“1000年に一度”と表されているが、リーマンショック時には“100年に一度”という表現が飛び交った。リーマンショックを引き起こしたサブプライム危機は、確率論によって理論付けられていた金融取引が、想定外のことが起きた時に連鎖的に機能不全に陥る可能性があることを示した。そして、今まさに国際的に金融規制を強化しようとしている途上である。

これら自然現象、あるいは社会科学現象における“想定外”に我々はどう対応していけば良いのだろうか。第一に、想定の範囲を十分に広げるという対応があるだろう。先に挙げた安全基準の引き上げである。15mクラスの津波を想定した防波堤を張り巡らしていれば、被害はもっと小さかったかも知れない。ただ、原発という局所的な対応はそれも可能だが、三陸海岸すべてにそのような対策を取ることは、現実的には困難である。経済コストを全く無視することはできない。第二に、想定を超えた場合の対応を考えておく方策もあろう。

これも一つの“想定”ということかもしれないが、経済合理的に十分な予防策を取った上で、それを超えた事象が起きた時の備えを考えておくことである。例えば、津波が防波堤を越えた時にどうするか、という対応策である。第三は、そうした全ての想定を超えた時の対応である。これに関しては、なかなか準備ができない。求められるのは迅速な人智の結集であろう。今の日本はまさにこれが求められているときと言える。ここではリーダーシップもさることながら、極限状態においては現場の判断と行動が重要になってくるのではないか。今回の震災で思い知らされたのは、指揮命令系統が機能不全に陥る可能性があり、そのときには、個々人の共助やネットワーク(例えばGoogleのPerson Finderに見られるように)が大きな力を発揮するということだ。準備できるとすれば、そうした発想で危機管理システムを構築することだろう。

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保志 泰
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