社会保障と税の一体改革とは何なのか
2011年02月01日
政府は、社会保障と税の一体改革案を6月までにまとめるという。超高齢先進国日本は、どんな社会保障制度を選択すべきだろうか。それでなくとも財源が不足している中、社会保障の拡充が増税の条件になってしまうと、税収だけでなく政府支出も増やすことになり、社会保障の不安定さを解消できない恐れがある。統一地方選もあって政治動向次第だが、社会保障と税制について熱い議論が交わされることになりそうだ。
社会保障が充実しているといえば、北欧である。社会保障を充実させることは良いことだが、もっぱら政府が広範囲の福祉サービスを提供する北欧モデルを日本は目指すのだろうか。ただ、北欧モデルは高い給付には高い負担、低い負担には低い給付という、負担と受益の論理が貫徹された、ある意味で厳しいシステムである。
直近のWorld Values Surveyによると、「一般的に、人は大体において信用できると思いますか」との問に対し、ノルウェー・スウェーデン・フィンランドは6~7割が「大体信用できる」としているが、日本は6割が「用心するにこしたことはない」としている。また、OECD factbook 2009によると(原出所はGallup World Survey)、「先月、困っている見知らぬ人を助けましたか」という問いで、日本は手助けした割合が34か国中最下位である。
日本には日本独自の社会心理構造があるのだろう。日本社会は所属する組織や共同体の中にいる限り安心であり、他人を信頼する努力がよい意味で不要であり、他者に無関心でいられる社会だったのではないか。だが、グローバル化が進む中、これまでの社会を前提にした経済は成熟した。今後は、無数にいる他人との間で信頼感を醸成し、互恵的関係を構築する理知や分別が備わった社会へ転換することが成長志向だと思われる。
社会保障のあり方も、人々の基底にある心情の現状とその望まれる変容に照らした改革案でなければ、他国の真似をしてもうまくいかないだろう。社会保障の機能強化が必要な分野はあるが、全体平均として引退層向けの社会保障拡大ペースを抑制しないと、現役層と企業の負担がますます重くなる。超高齢社会の社会保障を維持するためにこそ、単なる増税ではなく、増える負担を負担できる程度まで抑制するのが“一体改革”である。既に作ってしまった桁外れの世代間不公平と、重みを増すシルバー民主主義という難儀に対処できる社会の実現が改革の要だろう。
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