進む「パーソナル」デバイスの業務活用

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2011年01月25日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 中島 尚紀
様々な調査会社から米国の証券会社のIT投資について予想が発表されている。2010年の前年比増に続き、2011年にはIT投資の一層の増加が見込まれている。その重点的な投資分野のひとつとして、モバイルへの対応、特にパーソナルデバイス(タブレットコンピューターやスマートフォン)の活用があげられている。米国では、情報収集や分析などを対象に、これらのデバイスが証券ビジネスでも導入されてきている。

パーソナルデバイスでの「パーソナル」は、私的、という意味合いが強い点が注目される。勤務時間外の、一定の範囲で公私を問わない利用が見込まれてきているのである。今までも、携帯電話を利用した電子メールの対応は、公私の時間の区別なく管理職や営業職を中心に求められてきた。それが、いつでもどこでも身近にあり、すぐ利用できるデバイスを利用することで、対応すべき業務の範囲が広がったのである。

ビジネスでの利用が広がる理由として、機器の性能や機能の向上に加え、企業システムのクラウド化、さらにモバイル通信環境の整備があげられる。このようなインフラ面の発達により、場所を問わず企業内の情報にアクセスできるようになった。しかしながら、これらの技術面よりも業務形態の変化のほうが影響が大きいのではないかと思われる。業務における個人の責務と権限が明確になったことで、個々人が独立して行える仕事が増えた点が私的なデバイス活用の強い要因と考えられるのである。また、グローバル化が進んだことにより、遂行の際に場所・時間を制限しない業務の増加も導入を後押ししている。さらに会社内・外を問わず大量の情報を収集・分析する業務が増えたこともこういったデバイスが利用される一因である。

一方、企業提供デバイスを一定の範囲でも私的に利用することの是非は議論となる。米国のモバイルでの通信料は通常利用の範囲に限れば固定に近いことから、費用面は問題になりにくい。反面、情報セキュリティは問題となりうる。そこで、専用のアプリを提供すると同時に、企業内の情報については利用できるものを限定することが一般的になっている。これは、パーソナルデバイスが現時点で一般のPCに比べ制御が行いやすい点をうまく利用している。

そして、デバイス利用が公私混同になりうるといったモラル上の問題は、あまり話題にならなくなっている。その理由を想像すると、以下のような点が上げられる。まず、新聞を読むといった情報収集やその分析は私的な時間でも実は行われており、デバイス利用の公私をきれいに分けることはそもそも難しい。また、時間を問わない対応が様々な人員で必要な厳しい時代となっており、いずれにせよ業務が私的時間に割り込まざるを得ない。さらに私的な時間の空きを活用し効果的に業務を遂行することで他の私的な時間に業務が割り込むのを回避する、との考えからの「積極的な混同」もありえるだろう。これらを考えると、「オン」と「オフ」をシームレスかつ柔軟に切り替えビジネスの効率化を図る米国流がデバイス利用にもうまく現れているのでは、と考えるのである。

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中島 尚紀
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コーポレート・アドバイザリー部

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