「総合取引所」構想について

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2010年12月29日

「総合取引所」構想を巡る議論が活発になってきた。2010年12月には副大臣・政務官による検討チームが「中間整理」を発表し、遅くとも平成24年通常国会への法案提出、平成25年の実現を目指す方針が明らかにされている。

もっとも、いわゆる「総合取引所」自体については、2009年の金融商品取引法等の改正により金融商品取引所と商品取引所の相互乗入が可能となっており、制度上の制約はなくなっているはずである。それにも関わらず、「総合取引所」化の動きが活発化しない背景には何らかの理由があることが想定され、慎重に検討する必要があるだろう。その意味では、「中間整理」が、(1)取引所(システムを含む)について、(2)清算機関(決済を含む)について、(3)規制・監督について、(4)税制について、(5)更なる規制改革について、と5つの論点を示し、民間事業者とも意見交換を行うという姿勢を見せている点は評価できる。

ところで、そもそも取引所(市場)の統合に効果が期待できるのは、どのような局面であろうか?私見だが、一般論としては、次のようなケースが考えられよう。

A.取引対象(プロダクト)の同一性(又は関連性)
取引対象が同一であれば、取引所(市場)を統合することで流動性が高まり、価格形成の精度も高まることが期待されるであろう。また、取引対象が相互に密接な関係にあるものであれば、同様の効果を期待することができるかもしれない。

B.取引参加者(プレーヤー)の同一性(又は均質性)
取引参加者が同一であれば、取引所(市場)を統合することで、その取引参加者の業務の効率性が高まり、コストが削減されることが期待されるであろう。また、取引参加者の均質性が高ければ、同様の効果を期待することができるかもしれない。

C.規制・監督(レギュレーション)の統一性
一般に、規制・監督が統一的であれば、取引所(市場)を統合することで、当局による規制の効率性が高まることが期待されるであろう。当局による規制の効率が高まることで規制の実効性が上がれば、取引所(市場)の信頼性の向上にもつながり得るだろう。

これらとは逆に、相互の取引対象が密接な関係を持たず、取引参加者の均質性がなく、規制・監督も統一的でない市場を統合したとしても、アプリオリに統合効果が上がるとは考えにくい。その場合、取引所を統合することによるデメリットの方がどうしても意識されることとなる。統合に伴うデメリットとしては、独占・寡占に伴う競争の減少、リスクの集中(システム障害などが発生すれば全ての取引が停止しかねない)などが指摘されることが多い。筆者は、これらにガバナンスの問題(費用負担などの問題も含む)を指摘しておきたい。即ち、多様な市場の多様な関係者全てが満足、納得できるように総合取引所運営の意思決定を行うことは至難のわざだということである。

筆者は、取引所という「ハコ」の統合は、それ自体がゴールではなく、あくまでも何らかの目的を達成するための手段の一つとして位置づけるべきものだと考える。「総合取引所」構想についても、大きな目標(例えば、「アジアのメインマーケット」など)を目指すプロセスの中で、「総合取引所」化がなぜ必要なのか、それによってどのような効果が期待されるのか、実現すれば次にどのようなステップ、ステージに進むのかといった明確かつ具体的なビジョンが示されることで、初めて技術的な問題も含めた建設的な議論が可能になるものと思われる。単なる組織論に終始することは、わが国金融資本市場の活性化にとって好ましいものとは考えにくい。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳