ヨーロッパを直撃する二つの「寒波」:EUにおける高給バンカーのボーナス規制

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2010年12月28日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
今年のヨーロッパは寒波に見舞われている。ここ英国でも、大雪の影響でヒースロー空港が一時閉鎖された。
このヨーロッパの寒波は、天候にとどまらない可能性がある。というのは、高給バンカーのボーナスにも「寒波」が直撃するのではないかという懸念がささやかれているのである。
その懸念は、欧州連合(EU)が2010年に新たに定めた、世界一厳格な金融機関のボーナス規制ルール(2011年1月1日以降、すなわち2010年度分のボーナスより適用開始)に端を発している。
このEUのボーナス規制(CRDⅢ)は、銀行・投資銀行の役職員のうち、その職務行為が当該銀行・投資銀行のリスク管理に重大な影響を及ぼす者(取締役、シニア管理職、トレーダー等)のボーナスの支払方法やその開示を定めている(※1)
これによると、ボーナスのうち現金による即時支給額を最大でも当年度のボーナスの30%(高額のボーナス(※2)は20%)までとし、ボーナスの40%(高額のボーナス(※2)は60%)以上の支給を最低3年は繰延べなければならない。また、ボーナスの50%以上は株式等で支給しなければならない(図表1参照)。
このような厳格な金融機関のボーナス規制、特に現金支給へのキャップは、米国やアジア諸国にはみられないものである。
CRDⅢにより、高給バンカーが現金によって即時に支給を受けられるボーナスの額は、従来より大幅に減額されるであろう。
金融大国英国では、CRDⅢによって首都ロンドンの金融センターとしての競争力が低下するのではないかという論調が大勢を占めている。
その論拠は次のとおりである。
CRDⅢによって現金によるボーナスの即時支給額が減額されることを受けて、優秀な人材を留めるためには、その分基本給を増額しなければならない。
業績による弾力的な取扱いが可能なボーナスと異なり、基本給は固定費である。
その基本給の増額は、金融機関の財政状態を悪化させ、競争力を低下させる。

そして、英国の高給バンカーには、CRDⅢのほかにも不安の種がある。
英国は、2010年予算法にて、金融機関の高額ボーナスに対する課税措置(Bank Payroll Tax)を時限措置として導入した(※3)
Bank Payroll Taxは、2010年5月の政権交代後は適用期間の拡張はされず、現在では廃止に至っている。
しかし、ビジネス・イノベーション・職業技能相のケーブル氏(自由民主党)は、2010年12月19日、BBCに出演し、Bank Payroll Taxの再導入の可能性を示唆している(制度の詳細は不明)。
この制度が再び導入された場合、高給バンカーの手取りのボーナスがさらに減額されることになる。

このように、英国をはじめとして、ヨーロッパの高給バンカーに対する「寒波」は、しばらく議論の種となりそうである。

(※1)EU加盟国は、CRDⅢを自国の管轄法規に落とし込んで適用しなければならない。英国では、2010年12月17日、金融サービス機構(FSA)がCRDⅢを自国に適用するための新ルールを公表している。
(※2)ボーナスが「高額」か否かについては、EU加盟国各国の判断に委ねられている。ちなみに、英国では、50万ポンド以上を「高額」としている。
(※3)同法は、英国で活動する金融機関に対し、2009年12月9日から2010年4月5日の間に、従業員に対して25,000ポンドを超えるボーナスを支払う場合、当該超過分の50%の税金を納付する義務を課している。

図表1 CRDⅢによるボーナスの支給方法

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光